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第27話

───ドクンッ、 心臓が、大きな鼓動をひとつ打つ。 瞬きも忘れ、大きく見開いたままの瞳を真っ直ぐアゲハに向ける。 本当の……自由……? 「……救われてなんか、ない。 寧ろ、地獄だ。 若葉という蟻地獄に落ちて、サラサラの乾いた砂に埋もれ……不様に藻掻く無力な存在に、成り下がっただけ──」 「……」 血塗れた艶感のある唇。 それが僅かに開き、視界の下部へと消えていく。 『……』 現れた天井から視線を外し、眉をひそめ、奥歯を強く噛み締める。しかし、幾ら意識を散らそうとしても、与えられる熱までは振り払えそうにない。 ぴちゃ、じゅぽっ…… 薄闇の部屋に鳴り響く、厭らしい水音。 無理矢理こじ開けようとする劣情。それに抗う気持ちが、快楽に溺れかける身体から引き剥がされていく度──グチャグチャと引っ搔き回される脳内。 『………ねぇ』 下肢の方から聞こえる声。 暖色系のフットライトが小さく揺れ、重ねられた裸体が蠢く度に、陰影の形が変わっていく。 『もう観念したら、どう?』 頭を擡げ、宝玉のような美しい瞳がアゲハを捉える。 鋭く突き刺さるその視線は、まるで返しの付いたサバイバルナイフ。一度目を合わせてしまえば、簡単には外せない。 『貴方のココ、吐き出したくて苦しそうよ』 『……』 『ふふ、強情ね』 床に片手を付き、長い髪を掻き上げながらアゲハを見下ろす若葉。 『想い人にされてると思えば……少しは楽になるんじゃないかしら』 『……』 『私もね、そうやってやり過ごして来たのよ』 もう片方も床に付き、女豹の如く上へと上がると、アゲハの耳元に顔を寄せ、吐息と共に艶のある声を溢す。 「……俺は、若葉専属のホストになったんだ。 それがどういう意味かは……想像できるよね」 苦々しい表情を一瞬浮かべた後、揺らした瞳を僕から外す。 「……」 ……解るよ。 ハイジに連れられて入ったホストクラブで、アゲハの話をしていたホストがいたから。 アゲハに付いてた客は、若葉しかいなくて。ナンバーワンにのし上がったのも、若葉が大金を貢いでいたからだ、って。 「俺は……若葉の想い人である実父(達哉)に似ていたから。果たせなかった想いを、俺で晴らそうとしているんだとばかり思ってた」 「……」 「でも……違っていたんだよ」

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