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第32話
繫がれた手が強く握り締められる度に、そう言われているような気がして。
一人じゃないんだと思ったら、心が仄かに温かくなって……少しだけ息がし易くなっていた。
その日の夜……同じベッドで眠る僕の頭を、優しく撫でてくれたっけ。
……さくら……
大丈夫……大丈夫だよ……
温かくて、穏やかで。
アゲハの傍は、酷く安心できて。
ここだけが僕の居場所なんだと感じながら、眠ったのを覚えてる。
だから……日だまりのように心地良いこの場所に……いつまでも縋り付いていたかったのに──
『──今すぐ、アゲハから離れなさい!!』
アゲハの傍にいる度に、眉尻をつり上げて叱責する母。
威嚇するように僕を指差し、汚物か何かを見るような目で僕を見下す。
僕の頬を引っ叩き、反動で転がった僕の背中を、何度も何度も蹴りつけた。
『ごめ……なさ………』
その様子を、少し離れた所から見つめるアゲハ。
母を止めようとすれば、かえって逆上させてしまう──冷静に考えれば、なにもしなかった行為の意味を汲み取る事ができるけど。
……どうして、助けてくれないの……?
どうして……
あの時の僕は、其れ処じゃなかった。
背中を丸め、苦痛に耐えながらガードする両腕の隙間から、懇願するようにアゲハに視線を送り続けた。
「……」
抑止力だったおばあちゃんが亡くなってから……何もかもがおかしくなった。
あの家の秩序もルールも、全ては母。
母の支配下にあった僕は、肩身の狭い思いをしながら大人しく過ごすしかなかった。
それでも……居場所ならあった。
二人で使っていた子供部屋がアゲハの部屋になり、折檻部屋という名の小さな物入部屋が、僕の新しい部屋に成り代わってからも──
母の目を盗んでは、アゲハの部屋に侵入し……ベッドに潜り込んで枕やシーツに顔を埋め、涙を堪えながらアゲハの匂いを吸い込み、僕の中をアゲハでいっぱいにした。
多分、それだけ僕は……
……あの日だまりのように暖かい、アゲハの温もりを求めていたのかもしれない───
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