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第35話

××× 今朝のアレは、なんだったんだろう。 突然現れた黒い少年が、脳裏に焼き付いて離れない。 『……覚えて、たんだ……』──憂いを帯びながらも、何処か懐かしむようなアゲハの表情。 あれは、幻覚……? いや、違う。 あの少年は、僕の知らない過去を知っていた。 ……まさか、幽霊……? でも、あの部屋で心霊現象なんて…… 今まで起きた事なんかないし、物心ついてからずっと、幽霊自体を見た事もない。 だから……あれが幽霊かどうかなんて解らないけど。不可思議な現象が起こった事だけは、確か。 驚いたし、嫌な感覚もあったのに。……何だろう。あの黒い少年自体に感じた訳じゃなくて。呪われてるとか、そういう類いのものでもないような気がする。 「……」 どうしよう。 今日に限って、アゲハが家にいない。 僕一人の時にもし現れたら…… 多分、今朝より冷静ではいられないかも。 「工藤!」 ざわざわと騒がしい、昼休みの教室。 頬杖をつき、憂鬱を抱えながら怪しげな雲の掛かる空を眺めていると、僕を呼ぶ声が遠くから聞こえた。 見れば、後ろのドア付近に立つ担任──染矢が、此方に手招きをしていた。 「……」 何となく気が進まないまま、机に両手を付いて立ち上がる。 僕が担任に呼ばれたのが気になったんだろう。友人達に囲まれて談笑する清井が、此方を見たのが解った。 「話がある。ついてきなさい」 短くそう言い切ると、僕に背を向けた担任が廊下を歩き出す。僕の歩幅など、お構いなしに。 ガヤガヤ、ガヤガヤ…… 教室よりも寒い筈なのに。廊下は生徒で賑わっていた。 並んで歩く、似たような髪型の女子達。ふざけ合ってる男子集団。座り込んで談笑する、男女混合のグループ。イチャつくカップル。 毎日毎日、一体何をそんなに喋る事があるんだろう。先生の後を追いながら、そんな事を思う。 ああ……やっぱり僕には無理だ。 もしも学生の本分がこれだというのなら、僕は今すぐ学生を辞めたい。 『……なら、僕が代わってやろうか?』 キーン…… 耳奥まで劈く、鋭い高音。 思わず目を瞑ったその裏に、眩い光がチカチカと光る。 驚いてパッと目を開ければ、太陽の黒点のようなものが景色に混ざってチラチラと浮かび、黒眼を動かす方向へと付いてくる。 「……」 なに、今の……

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