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第37話
「一年の頃から、出席日数が極端に少ないのも気になる。
少し前まで入院していたそうだが……勉強の方は、どうしていたんだ?」
「……」
心臓が、嫌な鼓動を打つ。
これまでの事を、学校にどう伝わっているのかが解らない。
何処まで本当の事を言うべきか。誤魔化せばいいのか。皆目見当が付かない。
ただ。ひとつ、答えられるとしたら──質問に対する、イエスかノーかだけ。
「なにも……してません」
「……、そうか」
僕の答えを聞いた途端、先生が僅かに顔をしかめる。
きっと軽蔑の意も籠められているんだろう。
「この先、学習塾に通う予定は?」
「……」
「他にサポートできるもの……そうだな。例えば、家庭教師は……」
「……」
何も答えずにいれば、僕の顔色をじっと窺っていた先生が深い溜息をつく。
「工藤の置かれてる状況は解った。
今後の方針について、一度保護者の方と話し合いたいと思ってる。
確か……複雑な事情があって、今は親御さんの代わりにお兄さんが面倒を見ているそうだな」
「………はい」
「先生からも連絡するが、一応工藤の方からもお兄さんに伝えておいてくれ」
言い終わるとほぼ同時に、鳴り響く予鈴。
腕時計を確認した先生が静かにファイルを閉じ、スッと立ち上がる。
──パタン、
「次の授業、遅れるなよ」──そんな台詞もなく、静かに立ち去る先生。
頭の出来が悪い僕とは、一緒の空気を吸いたく無かったんだろう。話は始終、僕の成績や勉強の事だけで。僕が休んでいた理由については、一斎触れて来なかった。
「……」
でも……先生なんて、そんなもんか。
自分の立場が危うくならない限り、勝手に外れていった生徒の事なんて、どうでもいいと思ってるんだろう。
廊下に出ると、肺に送り込まれる真っ新な空気にホッとする。
なのに。息を吐く度に、胸の内側が重たくなっていく。
……高校、か……
今まで、考えなかった訳じゃない。
だけど何処か、遠い世界のような気がして。僕には関係ないと思ってた。
「……」
おかしいのかな、僕って。
別に成績が良くなくても、いい学校に入れなくても、全然構わないと思ってる。
何なら、中卒でもいいとさえ……
こんな僕でも、働ける所があるかなんて解らないけど。慎ましく暮らしていける分だけ、稼げればいい。
何処か小さなアパートを借りて、人並みに働きながら竜一が帰ってくるのを待つの。
そしてまた、一年前のように竜一と……
そんな未来しか、望んでない。
僕にとってはそれが、幸せな道だと思うから。
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