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第38話
渡り廊下を渡り終え、教室へと向かう。
人気のない廊下。休み時間の賑やかな雑音を全て吸収し、しんと静まり返っている。
ぽつんと、存在する僕。
それはまるで、何処にも混じれずに漂う異物のようで。普段は気にならない足音や心臓の音が、やけに大きく響いてしまう。
「……」
そもそも、僕に居場所なんてあったんだろうか……
不意に足を止め、再び訪れる静寂に息を潜める。
上履きの爪先にある、学校名と貸出ナンバー。
今朝の登校時。玄関で靴を脱ぎ下駄箱を覗くと、昨日まであった上履きが無くなっていた。
ロッカーから消えた体操服も、家には無くて。……やはり誰かが僕に対し、陰湿な虐めをしているとしか思えない。
確たる証拠はないにしても、思い当たるのは──清井奏仁。
先生に呼ばれて教室を出る時、此方の様子をじっと窺っていた。
先生から何を聞き出されるのか。僕が何を話すのか。気になって見ていたんだと思っていたけど……
もしかしたら『下手なことは言うな』と、圧を掛けるものだったのかもしれない。
どちらにしろ、もうあのクラスに僕の居場所なんて……ない。
*
「一緒に帰ろう」
ホームルーム直後の、騒がしい教室内。上着を拾い、机の横に掛けた鞄を取ろうとして、快活な声が前方から聞こえた。
見れば、両足を通路側に投げ出し横向きに座る清井が、爽やかな笑顔を浮かべながら僕からのふたつ返事を待っていた。
「……」
一体、どういうつもりだろう。
僕は最初から、アンタの邪魔をするつもりなんてないのに。
なのに無駄に絡んでくるアンタのせいで、僕はこのクラスから孤立し、浮いた存在に成り下がったんだ。
これ以上、構うな。
僕はもう、お前の自己満で利用されるような価値なんて、もう無いに等しいんだから。
腹の底から沸き上がる感情を、視線に乗せてぶつける。
「ね?」
なのに──簡単に撥 ね除けられる。
まるで僕の攻撃など、全然効いて居ないかのように。
僕の机に片手を置き、僕の顔を覗き込むようにして清井が見つめる。少し寂しげな目付きで。懇願する子犬のように、上から目線で。
「……」
ここまで揶揄われるなんて、思わなかった。
もし断れば、聞き耳を立てているだろう女子達が、僕を蔑むに違いない。
そういうのを全部解ってて、僕の口から選択肢のない答えを言わせる気だ。
「奏仁!」
と突然、この妙な空気に割って入る声が、すぐ近くから聞こえた。
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