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第39話
スッと清井の隣に近付く、一際背の高い男子。
「早く帰ろうぜ」
男の手が清井の肩を軽く叩き、気怠そうに前方のドア付近を指差す。
そこには既に男女数人が集まっており、此方の様子を窺っていた。
「うん。……工藤も一緒に、いい?」
その小集団を確認した清井が、隣にいる長身男を見上げて答える。僕の返答など、お構いなしに。
「……」
黒眼だけを動かし、僕を見下ろす長身男。清井の作られた聖人君子とは違い、あからさまに敵意を向ける眼──酷く冷めきっていて、僅かに訝しげな視線を向けていた。
……ああ……
これは、異物の僕から清井を守ろうとする眼だ……
ガタンッ、
片手を付き、勢いよく立ち上がると、上着を掴み、鞄を指に引っかけて立ち去る。
「………なんだ、アレ」
背後から聞こえる、高身長男のぼやき。その吐き捨てた声に、呆れと揶揄するものが含まれているように感じ、何とも言えないもやもやが募る。
「さぁ……」
清井の声。
きっと、僕の行動を心の中でほくそ笑んでるに違いない。
ギュッと握り閉める鞄。学校名と貸出ナンバーが書かれた上履き。
屈辱的な絡み方や敵視する視線に耐えかね、床を蹴って廊下に飛び出す。
ざわざわ、ざわざわ……
「……」
もう、どうでもいい。
理解して貰おうなんて思わない。
アイツらがどう思おうが、僕には関係ないから。
*
……はぁ……
自宅マンションに入った途端、大きな溜息が漏れる。
玄関ドアの鍵を閉め、靴を脱いで上がると、それまで張っていた気が一気に緩んだんだろう。全身の力が抜け落ち、身体が鉛のように重い。
仄暗い部屋。
しん、と静まり返る空間。
『おかえり』
──いつもなら、明るい電灯の下、優しい笑顔を浮かべるアゲハが出迎えてくれてた。
少し前まで、鬱陶しく思っていた癖に。せめて僕には無関心でいて欲しいと、心の中で願いながら突っぱねていた癖に。
今日に限って、アゲハが恋しいだなんて……
「……」
自室に入り、鞄を床に置く。
刻一刻と暗くなっていく部屋。その中で上着を脱ぎ、制服のボタンを外す。
冷えた空気に晒され、粟立つ素肌。淋しさも一緒に包み込んでくれる温もりは、ここにない──
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