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第40話
マンションの外観を照らすライトのせいで、淡く光るカーテン。その微かな光を頼りに、ベッド端に置かれた部屋着を拾い、袖を通す。
制服の皺を伸ばしながらハンガーに掛けた後、チェスト前に跪く。
取り出したのは、僕の大切なジュエリーボックス。パカッと蓋を開け、現れた十字架の片割れピアスをふたつの瞳に映す。
「……」
両手で小さな箱の側面を包み込み、胸の前に構えてそっと目を閉じる。
……ねぇ、竜一。
僕ね、今日もちゃんと学校に行ったよ。
アゲハとの生活も、上手くやれてると思う。
それにご飯もね、ちゃんと食べてるよ。
まだ痩せっぽっちだけど……少しは抱き心地、良くなってきたかな。
……竜一。
表社会に戻ってから、竜一との約束……ちゃんと守ってるから。
だから、大丈夫だよ。
心配しないで……
どんなに遠く離れてても、竜一とは繋がってるって……思ってるから。
本心を隠すように心の中で強がってみせるけど、目頭が熱くなっていくのを抑える事ができなくて。
会えない淋しさも募り、重ねた睫毛が涙で濡れる。
『……さくら』
思い出されるのは──僕の名前を囁く甘い声。温もり。胸と胸を合わせた時の鼓動。竜一の匂い。
……大好きだよ。
大好き。
好き……竜一……
脳裏に現れては消える、竜一との思い出──病室のベッドで交わした言葉や、重ねたキス。
一緒に過ごした、アパートでの生活。
アゲハの部屋で抱き締められた、ひだまりのような温もり──
全てが走馬灯のように駆け巡り、胸の奥が切なく震える。
パタパタパタパタ……
突然。
僕の背後を走る、小さな足音。
その瞬間──身体に緊張が走り、顔が強張ったのが自分でも解った。
……だれ、か……いる……
それまでの感傷的な気分が壊され、植え付けられたのは……地を這うような恐怖。
濡れたままの睫毛を静かに持ち上げ、息を潜めながらゆっくりと振り返る。
──誰も、いない。
それに安堵する余裕もなく。ジュエリーボックスを握り締めたまま、立ち上がってドアへとそっと近付く。
パタタタタタタ……
僕の脇を通り過ぎ、ドア向こうへと走り抜けていく足音。
僅かに揺れる毛先。
暗い空間での不可思議な現象が、余計に恐怖を駆り立てる。
……まさか……黒い少年……?
脳裏を過ったのは、朝食での出来事。
パタパタと走る音が、必然とそれを連想させた。
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