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第44話 *

××× 「……この方程式は、まずカッコを外し──……」 教卓の前に立ち、数学の専任教師がテスト問題の解説をしている。 赤い斜め線が大きく入った答案用紙は、見事に白紙で。先生の話を聞こうとするものの、基礎知識がないせいで右から左へと抜けてしまう。 ふぅ、と溜息をひとつ。 頬杖をつき、窓の外を眺める。 相変わらずの高い空は、何だか寂しそうで。並んで飛んでいく2羽の冬鳥が、温かく賑やかな場所に留まる僕を恨めしそうに見下ろしているように見えた。 「……」 あれから何となく過ぎていく日々。 アゲハの同意があったらしく、先週から放課後補習を受け始めている。 ハイジに出会ってなければ、受けていた筈の授業。だけど、僕にとって勉強よりも大切なものだったと思う。 あの頃は、楽しかった。 家出をして、ハイジのチームのみんなと一緒に過ごしたひと夏。 まるで夜空に咲く大きな花火のように激しくて、一瞬の輝きに過ぎなかったけれど。それでも、血のつながりを持たない者同士の強い絆に、僕も混ぜて貰えたような気がして。こんな、誰からも愛されない、存在価値のない僕を受け入れてくれる所があるんだって思ったら……嬉しかった。 今は、幼い頃に願っていた通り、アゲハと一緒に暮らしているけど。色んな事があったせいで、素直に甘えられそうにない。 蟠りを無くしてアゲハと仲良くしたい気持ちもあれば、竜一との仲を裂かれた恨みのようなものもある。 この一年を無事に過ごせたらいいと願う一方で、今すぐにでも出て行きたい衝動に裏返る。 そう思えば、寒空の下であっても仲良く番で飛ぶ冬鳥が、羨ましいとさえ思えてしまう。 この先どんな困難な事があっても、離れる事はないんだろうから。 「……」 真っ白な空間。微かな消毒液の匂い。 窓の向こうから聞こえる、女子の燥ぐ声。 端から聞けば楽しそうだけど、そこに混ざりたいなんて思わない。 盗られた体操着。隠された上靴。アゲハには何も言えないまま、体調不良を言い訳にして体育の授業を毎回サボっている。 実際、見学するにも外は寒くて。じっとしていると凍えてしまいそうだから、こうして保健室の温いベッドの中で横になっていた方が良かったりする。 「……工藤」 突然、棚村先生の声が聞こえた。 戸が開く音を聞き逃したんだろうか。驚きを隠せないまま、間仕切りカーテンの方へと視線を移す。 「大丈夫か?」 シャッとそのカーテンが勢いよく開くと、心配そうな顔をした先生が僕をじっと見つめた。

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