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第53話

「……ごめん。虚勢張ってたから、まだ動揺が抜けてなくて」 「……」 「こんな形で工藤に知られるとは、思ってもみなかったから……」 清井の瞳が、僅かに揺れる。 爽やかな笑顔の中に見え隠れする動揺。それが、いつもとは違う雰囲気を漂わせている。 「MVに出演してから、さっきみたいに嗅ぎ回られる事が多くなってね。 でも僕は、覚悟して芸能活動を続けてるからいいんだけど…… 工藤は、……違うじゃない?」 「……」 「MVの発売記念で、黒咲さん──工藤のお兄さんと対談する機会があって。終わって帰ろうとした時かな。『弟のさくらをよろしく』って、言われてさ」 「……」 そんな、事が…… 「あ、でも別に、頼まれたから声を掛けてた訳じゃないからね。……初めて教室で会った日から、僕のこと避けてるような気がしたから。なにか、気に障るような事したかなって、ずっと気になってて」 「……」 「クラスのみんなとも、上手く馴染めてないように見受けられたし。僕が何とかできるかな……って。余計なお世話だったね」 ははっ、と清井が苦笑いをしてみせる。 「……」 誤解、してた……のかな。 ずっと清井は、僕がアゲハの弟であるのを隠したがっているんだと思っていた。自分の人気を取られるのが、嫌なんだとばかり。 でも……違った。 同じ被害者である僕が、またあの針のむしろに落とされないように、しようとしてくれていただけ── 「……ううん」 なんだろう。 ずっと胸につっかえていたものが、やっと取れたような気がする。 清井は……見たまんまの人間だった。 僕と同じ傷を持った、表裏のない人間。 あんなに嫌だったのに、どうしてだろう。 清々しい程に気持ちが晴れて、心地良さまで感じる。 嘘臭くて嫌だと思っていた笑顔も。漂う爽やかな匂いも。声も。全部。 僕のパーソナルスペースにいても──嫌じゃない。 ふと空を見上げれば、垂れ込めていた灰色の雲に切れ目が生じ、そこから光が射し込んでいた。 まるで、天使の階段のように。

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