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第54話 冒涜

××× 色んな事が重なって、ちょっと……疲れたな。 自室のベッドで横になりながら、暮れゆく部屋の情景をぼんやりと眺める。 清井の内情を知って、やっと心が落ち着いてきたと思っていたのに。……今度は、身体の不調か。 棚村先生に襲われかけたのが、まだ響いてるのかもしれない。 それから── ふぅ、と細い息を吐き、そっと瞼を閉じる。 その裏に映る、昼間の光景。 ざわざわ、ざわざわ…… 最寄り駅から徒歩五分圏内にある、立派な総合病院。 予約制にも関わらず、順番待ちの患者が所狭しと長椅子に座っている。待合室を抜け、吹き抜けの二階から下のフロアを覗けば、コンビニは勿論、洒落たカフェやベーカリー、レストランが併設され、多くの通院患者が利用しているのが見えた。 「……何か飲む?」 ツバ付きのキャップにマスク。シックな色合いのフード付パーカー。芸能人オーラを極力抑えたアゲハが、すぐ隣を歩く僕に目配せする。 「ううん」 それよりも、早く帰りたい。 二時間待って、診察はほんの十数分。これ以上体重が落ちるようなら、強制入院だと通告されてしまった。 本来なら、この後カウンセリングだけど。……断った。 待合室でまた長時間待つのは体力的にキツかったのもあるけど。入院中、まともに食事もできない僕に付き添ってくれた精神科医が、カウンセリングを担当していたとしたら、良かったのに── 「カウンセリング、本当に受けなくてよかったの?」 エレベーターで階下に降り、会計の窓口までの道中、アゲハが僕に尋ねる。 「……うん」 「そっか」 「……」 フロアの長椅子に、アゲハと並んで座る。会計までの待ち時間と、薬を受け取るまでの待ち時間を考えると、気が遠くなりそうだった。 家を出る時よりも、かなり体力を消耗している。もしかしたら、学校よりもキツいかもしれない。ただ座っているだけなのに。 「……あっ、」 突然──背後から聞こえる、女性の声。 高くて弾むようなそれは、浮かれているように聞こえた。

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