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第55話
「先生ぇ~、こんにちはぁ~!」
「キャハハッ。先生ぇ、後ろ寝癖ついてるぅ。かっわいー!」
「ねぇねぇ、先生。今日のカウンセリングで、私の話……いっぱぁ~い、聞いて下さいねっ!」
「……あ、私も」
「私も、私もぉ~!」
鼻に掛かったように甘ったるく、甲高い声。周囲の喧騒を掻き分けるように響く燥ぎ声に、僕の隣に座る見知らぬ人が振り返る。
それに釣られ、何気なしに声のする方へと顔を向ければ、僕の眼球に飛び込む──白衣姿のカウンセラー。
「……」
背の低い、くまの縫いぐるみを彷彿とさせるずんぐりむっくり体型。ボサボサに伸びた黒髪。前髪の奥に潜む、オタマジャクシのような小さい眼。パンパンに膨らんだ頬。
何処からどう見ても、モテる要素のない男性医師が、三人の若い女性達に囲まれキャアキャアと騒がれていた。
……何で、コイツが……
胸中を撫でる、ザラザラとした感情。
カウンセリングルームは、フロアの最奥──余り人が寄りつかない、静かな場所にある。
まさか、こんな所で会うなんて……
「……」
若い女性から軽いボディタッチを受け、満更でもないんだろう。医師の頬が緩み、浮かれたような表情で彼女達に応対している。
もう、二度と会いたくない──そう思っていたのに。
「……っ!」
精神科医の顔が、僅かに此方を向く。
それに気付き、サッと正面に向き直る。
バクバクする心臓。
胃から迫り上がる、嫌な感覚。
眼が合ったような気がしたけど、気のせいならいいのに。
「……やぁ、工藤くん」
いつの間に、目の前に回り込んでいたんだろう。
俯いた視界の端に侵入した靴先が、僕に向いたまま止まる。
「久し振りだね。調子はどうかな?」
頭上から降りかかる、耳障りな声。
怖ず怖ずと視線を上げれば、そこにいたのは案の定──女性達に囲まれていたカウンセラー。
「カウンセリングがまだのようだけど……この二週間、何かあったかな?
今なら空いてるから、アッチでお話しようか?」
素朴な顔に笑みを浮かべ、人畜無害そうな態度で僕に話し掛ける。
ぐにゃりと歪んだ、汚らわしい唇。優しげな声の中に潜む、ねっとりとした悪意。
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