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第15話
×××
もしかして……ずっと、気を遣わせてた……のかな。
ぽちゃん……
ひとり湯船の中で膝を抱え、背中を丸める。重く濡れた髪。その毛先から溢れた雫が、水面に幾つもの波紋を作る。
退院してからずっと、一定の距離を取るようにして過ごしてきた。
アゲハの本心が見えなくて、不安に陥った事も……首元の手術跡が視界に入る度、責め立てられるような感覚を覚えた事もあった。
そして僕自身、また周りに流されてしまっているのも嫌だった。
だから……突っぱねていただけなのかもしれない。
多分本当は、納得してる。
感情が追いつかないだけで、頭の中では解ってる。
この生活が、今の僕にとって一番安全で……表社会で生きるには、一番自然な流れなんだって。
だから竜一も、僕をアゲハに預けたんだ。
『思ってる事は、ちゃんと話して欲しい』──夕食での光景が、ふと脳裏に映る。
アゲハは……気付いていたんだよね。
僕の中に抱えているものがあって、ちゃんと消化できていないんだって。
だから一歩、踏み込んできてくれたんだよね……
「……」
膝を抱える手に力を籠め、そっと瞼を閉じる。
狭くて暗い折檻部屋。
その入口が開き、眩い程の光に溢れた場所から姿を現す、幼いアゲハ。
押し入れの隅で膝を抱え、小さくなって震えるだけの僕。
光と陰の境界線を越え、暗闇の中──押し入れの隅で膝を抱え、小さくなって震えている僕の方へと、アゲハの手が伸ばされ──
──ぱしゃっ。
水音がして、ハッと我に返る。
気が付けば、水面から片腕を出し──その手を掴もうとしていた。
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