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第61話
「土曜日に、あのジャーナリストと会ったよ」
ベッド端に座った清井が絆創膏を脇に置き、消毒液の蓋を開ける。その動作をぼんやり眺めていると、清井が続けて僕に話し掛ける。
「交換条件を提示した上で、質問に答えた」
「……え」
「僕に対してならまだしも、工藤は一般人じゃない? 平穏な日常を壊すような行動──待ち伏せとか、付き纏いとか。そういうのは止めて欲しいって、釘を刺しておいたんだ」
「……」
ツキン、と胸が痛む。
ずっと僕は、清井に対して嫌な態度をとっていた。なのに、まさか……こんな風に庇われるなんて。
思い返せば、初めて清井に会ったあの日──MVの話でクラスメイトと盛り上がってる中、僕にだけ解るように、立てた人差し指を口元に当てただけ。
たったそれだけで、僕は酷い勘違いをしてしまった。──『アゲハの弟だと言うな』『僕の世界を壊すな』と、脅されたんだって。
でも、実際は違ってた。
僕が懸念してた事を、清井も感じていて、そのサインを送っただけだったんだ……
「……ごめん」
「え?」
突然の謝罪に、清井が驚いた様子で振り向く。
「前に体操着、貸そうかって言ってくれた事があったでしょ?」
「……」
「あの時、酷いこと言っちゃったから」
「ああ、気にしないで」
いつもの柔やかな笑顔に戻った清井が、サラリと言ってのける。
「気にするよ。だって……清井だと、思ってたから」
「ん?」
「僕の体操着、盗んだの」
そう言い放つと、再び清井の瞼が大きく持ち上がる。
「──え、盗まれたの?!」
「うん。僕の事が嫌いで、嫌がらせしたのかなって……」
「ええっ!? どうして僕が、工藤を嫌いになんか──」
「……ごめん。そうかなって、勝手に僕が思い込んじゃってただけ」
「……」
ゆっくりと正面を向いた清井が、絆創膏を持ったまま動かなくなる。
「そっか。……だから今まで、僕を警戒してたんだね」
「……」
これまでの事を、思い返しているんだろう。清井の目が何処か一点を見つめていた。
「それにしても、誰がそんな酷い事──」
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