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第62話
いつもとは違う──鋭い視線。
僕の気持ちを代弁しているみたいで、何だか嬉しい。
「それ……貼ろうか?」
清井が持っている絆創膏を指差す。片手だと、上手く貼れないだろうから。
「……ああ、うん」
僕の声に、我に返ったらしい清井の肩が、僅かに跳ねる。
口角を綺麗に持ち上げ、僕を見る清井の瞳には、先程まで無かった柔らかな光が宿っていた。
受け取った絆創膏を患部に当て、フィルムを剥がしながらテープを固定する。
こんな擦り傷ひとつでも、芸能人にとって命取りになったりするのかな……
「ありがとう」
捲ってた袖を下ろした清井が、絆創膏のゴミを片手で拾い集める。
「体操着の事なんだけど……僕なりに、調べてみてもいいかな?」
「……え」
クシャッと、その手を握り締める。
「だって、嫌じゃない?
工藤を傷つけたのも許せないけど。そのせいで、僕が犯人だと思われてたんだから」
目を伏せ、睫毛で隠れた清井の瞳から光が消える。瞬きする度に垣間見える、怒りのような負の感情。
「……」
言わなければ、よかった。
清井を、傷つけた。
いつもそうだ。
そんなつもりはなかったとしても、余計なひと言を言って嫌な思いをさせてしまう。
清井が怒って当然だ。だって、勝手に犯人だと思ってたんだから。
どうしよう……悔やんだって仕方ないのに。口から出てしまったら、もう取り返しなんてつかないのに。
どうしよう……
こんな時、どうしたらいい?
「さて、と」
まごまごしているうちに、清井がスッと立ち上がる。
「そろそろ授業に戻るね」
消毒液と絆創膏の箱を拾った清井が、いつもの爽やかな笑顔を浮かべてみせる。
「……うん」
その表情に不安を感じながらも、心の何処かでホッとする自分がいた。
*
「まず、この問1だが……」
教室内が夕焼け色に染まる中、染矢先生と二人だけの特別授業が始まる。
小5~6レベルの五教科テストを受け、僕の学力を計っているらしい。
「面積を求める公式は、覚えているか?」
教卓の前に立つ先生が背を向けると、カツカツと軽快な音を立てながら、黒板に文字を書いていく。
「……」
その位の知識なら、何となく覚えてる。
母の代わりに僕のテストを見ていたアゲハが、間違っている所を丁寧に教えてくれたから。
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