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第65話

* 学校を出ると、外灯の光が目立つ程にすっかり辺りが暗くなっていた。 部活動に勤しむ運動部員達を横目に、一人門をくぐる。 鼻の奥まで突き刺すような、冷たい空気。 だけど、考えすぎた脳内を心地良く冷やしてくれる。 「……」 何だったんだろう……あの幼子は。 どういうタイミングで、何の目的で現れるのかが解らない。 確か、さっきも── ……パタパタパタ 教室内を走り回る、小さな音。 見れば、何かに怯えるように背中を丸めた幼子が、窓辺の方へと走って行く。 備え付けロッカーの上には、黒いペンケース。……誰かの、忘れ物だろうか。 『どうした』 黒板を消していた先生が、窓の方をじっと見ていた僕に声を掛ける。 『帰らないのか?』 『……いえ、帰ります』 冷たく、刺すような目で見据えられ、急いで筆記用具などを鞄に詰め込む。隣の机上に畳んでおいたアウターを掴み、胸に抱えながら教室を出ると、後ろ手でパタンとドアを閉める。 コツ、コツコツコツ…… ドア向こうから聞こえる足音。それが、次第に遠のいていく。 追い掛けられた訳ではない事にホッと息をつきながら、ペンケースのある窓辺へと向かったんだと直感した。 「……」 きっと、僕が見ていたから気付いたんだろう。 ただ、それだけ。深い意味なんてない。 モヤモヤする気持ちを抑え、無理矢理納得させるものの、突然現れた幼子の幻影や、その子が先生の足に縋り付く様子が脳裏に焼き付いて……なかなか消えてくれそうにない。 『ごめ、んなさい……』 許しを請う、悲痛な声。 それが、何度も何度も何度も── 「……!」 突然襲う不快感──胃の中に手を突っ込まれ、搔き回されたような痛みと気持ち悪さ。吐き気。 口の中に異物を押し込まれた感覚と熱が蘇り、胃から迫り上がってくる何か。 細い路地の片隅にしゃがみ込み、口元を押さえる。 背後から迫ってきた、生温かな空気と吐息よりも、キツい…… 「……」 もし、また現れたら──そう思うと、憂鬱になる。 一体、いつまで続くんだろう。 あの威圧的で冷たい態度と、不適切な距離。 その中で突然現れた、幼い僕の幻影。 せめて、清井がいたら…… そしたら教室の雰囲気も変わって、今日みたいな事なんか、起きずにすんだかもしれないのに。

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