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第67話

この異様な光景に、怯む事無く近付く。 「そろそろ、戻った方がいいんじゃないですか?」 そう言って僕の腕を掴んだ清井が、引き寄せながら自身の背後へと匿う。爽やかな笑顔を浮かべたまま、先生を威圧するように。 ギシ…… 保健室のベッドに上がり、横になると、足元に畳まれていた掛け布団を清井がかけてくれる。 その一連の動作が、幼い頃のアゲハの記憶と重なって、何だか擽ったい。 ……お礼、言わなきゃ。 そう思ってるのに、中々言葉が出てきてくれなくて。何も言えないまま、清井が静かに離れていく。 「……」 どうしよう……僕のせいで、清井の立場が危うくなってしまったら。 先程の光景が頭を過り、遠ざかる清井の背中をぼんやりと眺めながら、不安ばかりが募る。 「僕も今日は、休むよ」 カタンッ、 パイプ椅子を抱えた清井が、僕の枕元まで運んで来る。 「流石に……あんな事があった後で、普通に授業なんて受けられないから」 「……」 ……違う。 僕を安心させるための、嘘だ。 ドクン、ドクン、ドクン…… どうしよう。 あんな風に庇われたり、優しくされたら…… 清井から感じる、眩しい程のオーラ。 胸の奥が柔らかく締め付けられて、苦しいのに……嬉しくて。 「……ありがと」 掛け布団を鼻先まで被ったまま、ボソッと吐き出す。 「清井が来てくれて、良かった……」 鼓動を打つ度、布団の中が温かくなっていき、気怠さを含んだ眠気のようなものに襲われる。 「僕も。偶然通りかかって、良かったよ」 イスに腰掛けた清井が、僕を見守るように優しい視線を送る。 「……」 思い返せば、いつもそうだった。 初めて会った時も。立てた人差し指を、自身の口元に当てて見せた時も。体操服を貸そうかと、声を掛けてくれた時も。一緒に帰ろうと、誘ってきた時も。 周りの目なんか気にせず、僕に気遣ってくれていた。 なんでそこまでしてくれるのかはよく解らないけど、下心のある人達とは全然違う。 清井は……こういう人なんだ。 そう思ったら、周りに人が集まる理由も、慕われる理由も解る。 自然と、惹きつけられてしまう──

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