68 / 70

第68話

瞬きをしながら視線を逸らせば、ぼんやりとした視界の端に映る清井が、背もたれにもたれ掛かったままゆっくりと顎先を上げたのがわかった。 「補習、今日もあるの?」 「……え」 「僕も参加したいって、この後先生に頼んでみようかな」 「……」 ……え…… まだ、話してなかったの? 清井から話は聞いてるって、あの時確かに言ってたのに。 「そのこと、なんだけど……」 意を決して口を開く。 「昨日、話してみたら……駄目だって」 「……」 「その……僕とは学力が、違いすぎるから」 此方に顔を向けた清井の目が丸くなり、背もたれから身体を浮かせる。 なにか……おかしな事、言ったのだろうか。 「……そっか。聞いてくれてたんだ」 どうやら杞憂だったらしい。直ぐに口角を持ち上げ、優しげに目を細める。 「補習、受けられないのは残念だけど。工藤が僕の代わりに掛け合ってくれてたのが、嬉しいよ」 「……」 「そうだ。今度一緒に、勉強しない?」 「……え」 突然の提案に、驚きを隠せない。 ころころと変わる表情にも、目が離せない…… 「休みの日に、市立図書館にでも行ってさ」 図書館──そっか。 そういう公共の場で、勉強会ってするものなんだ。 「……うん」 答えながら、不思議と心が軽くなっていく。 日の当たる平穏な日常は、僕にとって息苦しいものだとばかり思ってた。 決して周りと交われず、疎外感が拭えないものだとばかり。 でも、そうじゃないのかも。 清井の傍にいると、僕も普通の人と同じようにしてもいいんじゃないかって思える。 「じゃ、いつにしよっか」 身体ごと此方に向けた清井が、明るく笑う。 その刹那、陽だまりのように眩しい光が、真っ直ぐ射し込んでくる。僕と世界を隔てようとしている、空気の膜の向こうから。 ……こんな、汚れた僕に。 酷く静かで、落ち着いた空気。 こんなに穏やかな気持ちでいられるのは、いつぶりだろう。 今度の土曜日に一緒に図書館に行く約束をしてから、暫く会話が途切れたままだけど……全然平気。 同じ被害者同士だから? ……いや、違う。 アゲハと似ているから? ……それも、違うかな。 確かに清井は、幼い頃のアゲハに何処か似ている。傍にいて落ち着くし、心地良さまで感じる。

ともだちにシェアしよう!