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第69話
でも、それだけじゃない。
僕を陥れようとか、利用してやろうとか、性的な目で見てくる奴らとは違う。
僕を対等に扱い、何の見返りもなく仲良くしてくれる人。
──友達。
ふと、その単語が脳裏を掠める。
そっか……
これが友達、なんだ。
ずっと僕の周りにはいなかった存在──心の中が、雪解けのごとく溶けていく。
友達。
清井が、僕の友達……
心の中で反復した瞬間──胃の裏がキュンとなり、柔らかな緊張が末端まで走り抜ける。
「……」
掛け布団を深く被ったまま、清井の様子をそっと盗み見る。
仕切りカーテンの隙間から射し込んだ陽光が、窓の外を眺める清井に当たってキラキラと輝く。
……綺麗……
それは煌びやかで、内側からも輝いているかのように神々しい。まるで幼い頃に見た、アゲハのように。
「……昨日ね」
ぼんやりと、それを眺めながら口を開く。
自分の声が静かな空間に響き、耳の奥まで反響する。
「補習中に、不思議な現象が起きたの」
ゆっくりと瞬きをひとつし、溜息交じりに言葉を紡ぐ。
「もう一人の僕が現れて……ずっと、泣きながら先生に謝ってた」
「……」
思い出すだけで、現実が押し寄せる。
だけど、この苦しみを吐き出してしまいたかった。
誰かに、聞いて貰いたかった。
「清井は、ある? 自分の幻覚が、見えるとき……」
「……」
光に溶けて透ける、長いまつげ。
飴色のような瞳が動き、此方に向けられる。
「あるよ」
その瞳が僅かに揺れた後、僕ではない何処か遠い所を見るように、焦点が外れたのが解った。
「あの事件があってから、かな。
ベッドで犯されてる自分を、じっと見下ろしてる時が」
「……」
「マスコミからのセカンドレイプ に遭って、完全に精神がやられて……心療内科に、暫く通ってたんだ」
「……」
……そう、だったんだ……
あの時の事を思い出すだけで、息が詰まる。
ドアを激しく叩く音。何度も押されるチャイム。挙げ句の果てにはドアポストを開けられ、大声で名前を叫ばれて……
被害を受けたのは、僕の方なのに。
まるで犯罪者か何かのように、何処まででも追い掛け回してきた。
「……」
僕は運良く、若葉の知り合いの岩瀬巡査に、定期的に見回りをして貰えたから──その後は全然平気だったけど。きっと芸能活動をしていた清井は、そういう訳にはいかなかったのかもしれない。
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