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第71話 勉強会

××× 「……え」 市立図書館の入口前に立ち止まった清井が、掠れた声を漏らす。 古い校舎の玄関ドアのような、重い鉄扉のガラス窓に貼られていたのは──臨時休館の紙。 「まじか……」 がくっと肩を落とす清井に、思わずクスッと笑みを零す。と、それを見逃さなかったらしい清井が、僕に微笑み返す。 そんな何気ないやり取りが心地良くて、何処か懐かしい。 「仕方ない。あそこでやろうか」 そう言って清井が指差したのは、向かいの大通り沿いにあるファミレスだった。 * ザワザワ、ザワザワ…… 騒がしい店内。まだ昼前だというのに、既に半席以上が埋まっていた。 ドリンクバーふたつとクラブサンドをひとつ注文し、好きなドリンクを取りに行く。そして、準備に取り掛かかっていると…… 「……あ、それ見せて」 カップをテーブル端に置いた清井が、僕から補習プリントを奪う。 「体積かぁ。公式さえ覚えておけば、確かに楽勝だけど……計算するのが面倒くさいんだよね。特に、球体」 「……」 「三平方の定理とか、今だって大変なのに。高校生になったら、一体どんな複雑な数式が出てくるんだろうね……」 そう言って、ひらりと薄い紙を僕に返す。 「……」 高校生、か…… ズシンと胸の奥に鉛のようなものがのし掛かる。 ずっと、遠い未来だと思ってた。 竜一と出会った頃の僕は、まだ小学生上がりの子供で。見上げる背丈や体格、顔付きから、三歳差とは思えないほど大人に見えた。 なのに……こんな僕が、来年には高校生。 ……何にも変わってない。 寧ろ、竜一に出会った頃の僕よりも子供っぽくて、弱くなった気がする。 背だって全然伸びてないし、体格だってどんどん痩せ細って。そのくせ、汚れた分だけ人を疑って。臆病で。 何にも成長できてない僕。 このまま大人になってしまって、いいんだろうか。 「……あ、そうだ」 物思いに耽っていると、トートバッグの中を弄っていた清井が一枚の紙を僕に寄越す。 「参考になるかは解らないけど。学校休んでた時に自主勉してたプリントなんだ。良かったらあげるよ」 「……」 清井が手書きで作ったものだろうか。綺麗な字体から、頭の良さが窺える。 「心療内科に通ってた時、勉強の遅れを相談したら、先生が問題作ってくれてさ」 「……え」 「週一回、受診の度に丸付けしてくれて。この参考書も、先生に貰ったんだ」 「……」 なんだろう…… 羨ましいと思う反面、何でって気持ちが湧き上がる。 清井が欠席していた期間の穴埋め。断られた補習。その為に始めた勉強会だった筈なのに。

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