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第74話
この話は終わりとばかりに、目を伏せた清井が参考書を開く。
つられて僕も、貰ったプリントに視線を落とす。
「……」
だけど、そう簡単に気持ちを切り替えられそうになく。落ち着かないまま文章題を視線でなぞることしか出来なかった。
「お待たせいたしました」
持ってきた補習プリントを解いていると、テーブルの真ん中にクラブサンドがどんと置かれる。
驚いて顔を上げれば、笑顔を浮かべていたホールスタッフが、にこっと更に微笑む。
「お客様。店内での勉強は、ご遠慮いただいております」
「……あ、すみません」
問題集を解いていた清井が、咄嗟に顔を上げて謝罪する。直ぐに本を閉じ、筆記用具を仕舞い、テーブルに散らばった消しゴムのカスを集める。
慌てて僕もテーブルの上を片付け、清井と同じく消しゴムのカスを集める。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
粗方片付いたのを確認した店員が、深めた営業スマイルのまま立ち去って行く。
「……注意、されちゃったね」
紙ナプキンに集めたものを包んだ清井が、バツが悪そうな表情を浮かべる。
「うん」
図書館が閉まってたからと、このファミレスを指定された時から不安な気持ちはあったけど。優等生の清井が言うんだから、そういうものなのかなと思い直していた所だったのに……
「とりあえず、食べようか」
袋入りのおてふきを僕に差し出した清井が、爽やかな笑顔を浮かべる。
それまで抑えていたんだろう芸能人オーラが放出されてしまったのか。ドリンクバーに向かう女性客が、清井の方をチラチラと見ていたのが解った。
「……うん」
こんな風に、学校の友達と休日を過ごす日がくるなんて思わなかった。
アゲハの弟だというレッテルを貼られた時から、僕はアゲハに近付くための踏み台としか見られていなかったから。
アゲハのファンだという女性達は、僕を囲って『可愛い』だの『弟にしたい』だの言っていたけど、何処か冷めたような目つきをしていた。
だけど、アゲハが現れた途端──その目が宝石のようにキラキラと輝きだし、僕の存在など最初からなかったかのように、甘ったるい声を上げながらアゲハの元へと飛びついていった。
その光景は、滑稽でありながら気持ち悪くて。
僕を利用しようとする人達とは、一線を越えないように努めてきた。
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