76 / 77

第76話

あ…… やっぱり、引いたよね。 上手く濁せば良かったのに、なんでバカ正直に答えちゃったんだろう。 僕を捉えて離さない、清井の鋭い双眸。瞬きを何度も繰り返し無理矢理引き剥がすと、逃げるように俯く。 「……へぇ。随分と情熱的なひとなんだね」 思わぬ返しに、怖ず怖ずと視線を清井に戻す。 「似たような経験なら、僕にもあるよ。言い寄られてるうちにその人のことが頭から離れなくなって、気付いたら好きになってた……とか」 「……」 フォローのつもり、だったんだろうか。 僕を安心させるかのように、清井の目が針のように細められる。 「それで? その人とは付き合って、どれくらい経つの? 長い?」 「え……長い、のかな。基準がよく解んないけど、殆ど会えてないから」 「──え、なにそれ」 清井が、奇妙な声を上げる。 「付き合ってるのに、殆ど会えてないの?」 「……うん」 「それって、おかしくない?」 眉間に皺が寄せられ、訝しげな表情に変わる。僕を見る瞳が濁り、心なしか刺のように鋭い。 「……」 誤解、させた? だけど……今更ヤクザの人だから、なんて。口が裂けても言えない。 少し、浮かれすぎてた。 やっぱり最初から、こんな話題に乗らなければよかった。 「簡単に、会える人じゃないから……時期が来るまで待っててって、言われてて」 「……」 「淋しいけど、彼がくれた片割れのピアスがあるから。……会えなくても、全然平気」 「……」 嫌な音を立てる心臓。 慎重に言葉を選びながらも素直な気持ちを吐露すれば、斜め上を見上げた清井が大きなため息をつく。 「工藤って、案外一途なんだね」 ……え…… それは、どういう意味? 呆れたの? それとも嫌味? 僅かに感じる刺々しさに、拒絶されたような不安が募っていく。 「で。その彼氏さんは、それほど魅力的な人なの?」 口角を緩く持ち上げ、真っ直ぐ僕を見据える清井が、身を乗り出すようにして両肘をテーブルにつく。 まるで、罪人を尋問する刑事のように。 「……うん」 口にした瞬間──とくん、と胸の奥が甘く揺れる。 熱くなった血液が強く押し流され、全身を凄い速さで駆け巡る。 さっきまでの不安が、溢れる愛おしさによって掻き消されていく。 解けていく緊張。 じんわりと温かくなる手のひら。 「なら、仕方ないか」 ため息交じりにそう漏らす清井が、頬杖をつく。 じっと僕を見つめる双眸。その瞳が細められ、優しさを滲ませたように見えた。

ともだちにシェアしよう!