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第78話

××× マンションのエントランスに入り、エレベーターのボタンを押す。 いつもより少しだけ浮かれた気分。 チン、と音がしてドアが開くと、中にいた体格のよい男性と目が合った。 「……え」 オールバック。黒のスーツ。 切れ長の鋭い眼。闇を孕むドス黒いオーラ。 何処からどう見ても一般市民ではない風貌の男が、エレベーターから降りる。 「久し振りだな」 クッと持ち上がる、口の片端。 僕を映す二つの眼は、心の奥底を見透かすかのように見据えられる。 ……な…… なんで、ここに…… ドクンッ、と大きく跳ね上がる心臓。 苦しくなる呼吸。走馬灯の如く脳裏に過るのは、僕にあくどい取引を持ちかけた──辻田龍成。 「親子に喰われた気分はどうだ? ん?」 大きな片手が僕の顎下を捉え、両頬を掴んで乱暴に持ち上げる。 「……」 黙って睨み上げていれば、頬に痛いほど指が食い込む。潰れて変形する顔。それを見下ろす奴の眼が、汚らわしいものでも見るかのような目付きに変わる。 「──気に入らねぇな、その眼」 吐き捨てるようなどす黒い声。 別に。 アンタに気に入られたいなんて思わない。 だってアンタは、アゲハしか眼に入っていないんだから。 それにここは、虎龍会の管轄下。 僕に何か悪さをして、アゲハとの仲を切り裂くような事があれば、きっと若葉が許さない。 「ハッ。なんて面してやがんだ。俺がここにいちゃあ不服か? 友達に会うのに、お前の許可なんて必要ねぇだろ」 「……」 「逆に聞くがな。お前の居るべき場所は何処だ。……アゲハの傍か?」 指に力を入れたまま、挟んだ肉を引き千切るようにして辻田が手を離す。 頬に残る、凹んだ感覚と鈍い痛み。 「目障りだ。サッサとお前の居場所に帰れ」 今更になって、手足がガクガクと震える。 虎龍会会長の美沢大翔とは違う、底なしの恐怖。 児童養護施設出身で、少年院上がり。養護施設では、職員の頭を金属バッドでフルスイング。少年院では、ちょっかいを出した主犯の先輩に飛び掛かり、何の躊躇もなく鋭利なもので片眼をひと突きした……と聞いた。 そんな人が、どうして優等生のアゲハと友達になったんだろう。 僕には到底知り得ぬ事をぼんやりと考えながら、弛緩した身体が倒れぬよう上っていくエレベーターの壁に預けていた。

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