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第79話

こういう事があると、やっぱり僕は普通ではいられないんだと思い知らされる。 幾らアゲハと一緒に住み、平穏な毎日を送ろうとも、その影には必ず裏社会の人間が潜んでいる。 だったら辻田の言う通り、竜一の傍にいたって同じなんじゃないか。 若葉がどんなに今の生活を強いたとしても、危険と隣り合わせなのは変わらない。 条件付きの保護なんて、本当は何の意味もないのかもしれない── 「……ただいま」 しんと静まる空間に向かい、小さく声を吐き出す。 靴を脱いで玄関を上がれば、アゲハの部屋からだろうか。微かに物音がしたような気がした。 廊下を静かに歩き、そっとドアを開ける。 部屋中を不気味なほどに真っ赤に染める、斜陽の光。それから隠れるようにして、窓下にあるベッドに踞る人影。 「……」 破られた服が床に散乱し、此方に背を向けて眠るアゲハ。何かに縋り付くかのように、ケットを抱き締めている。 ここで一体何が遭ったのか、ひと目で分かる。 息苦しい空間。 ゾワゾワする背筋。 全てを遮断するように、そっとドアを閉める。 震える手足。息を殺しながら隣の自室に戻れば、僕を欺くかの如く部屋中を真っ赤に染めていた。 無理矢理、だったんだろうか。 想像しただけで、心臓を鋭利なもので切りつけられたような痛みが走る。 手提げを床に置き上着を脱ぐのも忘れ、ベッドに身を沈めるとアゲハと同じように踞る。 ……こんな時、どうすればいいんだろう。 被害を受けた事はあっても、誰かの事後を目撃するのは初めてで。自分が受けた時よりも苦しいのに……どうしたらよいのか解らない。 僕がアゲハのベッドで竜一に犯されていた時──その様子を目の当たりにしたアゲハは、身形を整えて帰っていく竜一を追いかけていった。 僕に声を掛ける事も、近づく事もなく。 何であの時、僕を蔑ろにして置き去りにするんだと思っていたけど。 ……今なら少し、解る。 あの時アゲハは、どうしたらいいか解らなかったんだ。 今の僕みたいに。頭が真っ白になって、僕にどう触れていいのか。 それを拒絶したと一方的に決めつけて、アゲハを余計に恨んでいた僕は……なんて浅はかだったんだろう。 「……」 恐らく、僕に悟られたくないんだと思う。触れられたくないから、僕に近付いて来なかったんだろう。 アゲハが起きて落ち着くまで、僕はここにいちゃいけない。 早く、何処かに出掛けなきゃ…… ベッドから下り床に置いた手提げを拾うと、そっと廊下に出る。 恐らくあと二時間。何処で時間を潰そうかと考えながら。

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