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第80話
何処に行くかあてもなく彷徨い、気付けば隣町の駅への案内板が目に付く。入り組んだ細い道が続くせいで、そこまで無事に辿り着けるか不安が過る。
少しだけ栄えた大通りに出ると大きな案内標識が見え、ホッと胸を撫で下ろす。
こんな風に、一人で知らない道を歩くなんていつぶりだろう。
賑やかな大通りの片隅にある、太いバネの付いた前後に揺れる馬の遊具とベンチしかない小さな公園。
日が暮れて暗い影を落とす様は、心なしか侘しさと不気味さを織り交ぜた雰囲気を醸し出していた。
このまま駅に向かった所で、いつ辿り着くか解らない。情けないことに体力もないし。
そんな事を考えながら、外灯がぽつんとあるその公園に足先を向ける。
二人掛けの木製ベンチ。薄らとライトが当たる部分に腰を掛ける。
持ってきた手提げからプリントを取り出すものの、文字が読めないほど辺りは暗くて。悴む手を吐く息で温めながら、フォグランプの点いた車が行き交う様子を遠くでぼんやり眺める。
……今、何時だろう。
刻一刻と辺りが闇深くなっていく。
首を竦めて両手を擦り合わせるものの、ひとたび冷たい風が吹けば、露出した肌から容赦なく熱を奪われていく。
お兄ちゃんも、こんな気持ちだったのかな……
あの時の答え合わせを、答えがないまましているみたい。考えたって解る筈なんかないのに。
もしかしたら本当に僕を拒絶し、一定の距離を保ったままの関係でいたかったのかも。
「……ねぇ」
突然、声がした。
驚いて顔を上げれば、そこには肩まで髪の長い男性が。
「誰かと待ち合わせでもしてるの?」
面長に優しそうな糸目。
ハーフアップにした細い髪。
黒のスタイリッシュなエプロン。薄手の長袖シャツ。
スラリとした体型も相まり、倫を彷彿とさせた。
「ここ、寒いでしょ。良かったらうちの店に来ない?」
男性が指差したのは、向かいの裏路地を斜めに入った所に見える小さな喫茶店。
この寒空の中なにも羽織っていない所をみると、僕を見かねて飛び出してきてくれたんだろう。
絵に描いたようないい人だ。
でも、無条件の親切ほど怖いものなんてない。
「窓際の席からなら、ここの公園がよく見えるから」
倫より低くて太い声。
警戒したまま男を見上げていれば、それに気付いたんだろう。少しだけ困ったように後頭部に手をやる。
「それにこの辺、暗くなると物騒なんだよな……」
「……」
「悪いことは言わない。心配だからうちにおいで」
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