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第3話

……、ら…… くら…… 「さくら」 名前を呼ばれて目を開ければ、そこには出会った頃を彷彿とさせる寛司の姿があった。 目の下や腕には浸出液に塗れたアトピーがあるものの、最後に見送った時のような酷い状態ではない。 「……かん、じ!」 両手を広げる寛司の胸に飛び込むと、僕の身体を優しく包み込んでくれる。 「また、会えたな」 「……ん」 あの頃の懐かしい匂いがする。 寛司の体臭に混ざった、浸出液の生臭いにおい。だけど僕は、嫌だと思ったことなんて一度もない。この匂いを嗅ぐ度に寛司を近くに感じられるし、何より……愛された記憶が蘇り、胸や身体の奥が、熱く疼いてしまう。 「……お前、また痩せたんじゃねぇか?」 背中に回っていた筈の手が、僕の腰を弄りながら滑り下り、臀部をキュッと掴む。 「もっと食って肉付けねぇと、……抱き心地が悪くなるって言ったろ?」 「……!」 耳元で囁かれ、ゾクゾクと肌が粟立つ。 「寛司の、エッチ」 「ああ……助平だよ、俺は」 唇を尖らせながら寛司を見上げれば、劣情を含んだ瞳とぶつかる。 「……」 ……ずっと、会いたかった。 あの日の約束、覚えてる? 無事に戻って来たら、続き……して貰いたかったんだよ…… 寛司の脇腹辺りの布地を掴み、真っ直ぐ見つめていれば……後頭部に手のひらが包まれ、寛司の唇が迫る。 「……ん、」 懐かしい、感触…… 強引に歯列をこじ開けられ、舌先が僕の咥内を弄る。 この柔らかな熱を感じながら、これまで過ごした懐かしい日々が思い出され……涙が溢れる。 ……もう、離れないで。 僕を連れてって。 寛司の傍において…… 寛司の背中に手を回し、そう心の中で懇願しながら舌先を寛司に差し出す。 ──駄目だ。 お前には、俺よりも大切な野郎がいるだろ。 「……!」 肩を掴まれ、離されていく温もり。 突然の出来事に……胸が張り裂けそうに震える。 「ずっと、お前の事が気掛かりだった。……あんな形で離れることになったからな」 「……」 「元の世界(オーバーグラウンド)に戻れるまで、ずっと遠くから見守ってたんだぞ」 僕の頬を優しく包む手。その親指が、零れ落ちる涙を優しく拭う。 「……悪かったな。俺のせいで、辛い思いを沢山させちまって」 そんなこと、ない…… 寛司から目を離さぬまま、小さく首を横に振る。 ……僕を…… いっぱい愛してくれたから…… 辛い、なんて…… 「俺がその辛い記憶を、半分持っていってやる」 「……え」 「だからもう、泣くんじゃねぇ。俺みたいな野郎の為によ」 辛そうに目を細める寛司の顔が、後から後から溢れる涙で歪んでいく。 「いつか、きれいさっぱり忘れて、……幸せになるんだぞ」 ふっ、 触れていた手の温もりが、消える。 それまで寛司を照らしていた筈の光まで消え、真っ暗闇の中に僕だけが取り残される。 「……」 ……やだ。 やだ、やだ、やだ…… そんなこと言わないで。 ……僕から、離れないでよ。 もっと傍にいて。 僕の中から……消えないで──!!  

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