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第6話
「……それは、困りますッ!」
突然大きな声がし、ビクンと身体が震える。
見れば、L字型に置かれたもう一つのソファに座る精神科医に、眉根を寄せたアゲハが詰め寄っていた。
「さくらはいずれ、この学区内の学校に通わせるので──其方の施設内の学校に行かせるつもりは毛頭ありません!」
「しかしね、君。今の状態で──」
「……まぁまぁ。二人とも落ち着いてください」
その様子を見かねた静流先生が静かに立ち上がり、二人の方へと身体を向ける。
「さくらくんはまだ、療養期間中です。この先のことは追々話し合うという事で……よろしいでしょうか」
僅かに振り返り、僕の存在を指し示せば、二人の間にあった蟠りが僅かながら取り払われていく。
「……わかりました」
「お父さんも、それでいいですか?」
「ああ……」
何かを飲み込んだかのように笑顔を取り繕うアゲハに対し、分が悪そうに眉をひそめた精神科医が顔を背けた。
*
……学校。
考えたこともなかった。
というより、学校なんて存在自体を……ずっと忘れていた気がする。
中学に上がってからは殆ど行ってなかったし、僕の中で必要性を感じてなかっただけなのかもしれないけど。
……でも、約束なら覚えてる。
竜一が表社会 に戻れるよう……普通の学生生活を送って、待ってて欲しいって……
「……」
頭が重くて、酷くぼんやりする。
施設内の学校って、なんだろう。
病院の中にも、学校ってあるんだろうか。
「……さくら」
呼ばれてハッと我に返る。
見れば、ティーカップを二つ手にしたアゲハが、不安げな表情で僕を見下ろしていた。
「紅茶淹れたけど、飲む?」
「……ん」
コト……
湯気の立つカップがテーブルに置かれる。と、アゲハの耳に掛かっていた栗色の横髪が、さらりと滑り落ちる。
「どうか、した?」
眼だけが動き、僕を捉える。
その綺麗な琥珀色の瞳に吸い込まれた先に見えたのは──さらりと肩まで長い金髪。何処か懐かしさを感じながらも、その色はアゲハらしくないような気がして……
「これ、似合わなかったかな」
垂れ落ちた横髪を掻き上げ、寂しげに溢す。
「さくらは、長い髪がよく似合うね」
「……」
視界いっぱいにアゲハの顔が近付いたかと思うと、僕の頬と横髪の間に指が差し込まれ、空気を含ませるかのように優しく梳かされる。
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