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第9話
視野が次第に開けていけば、その背後──清潔感のあるカーテンや真っ白な天井が見え、消毒液のような匂いが微かに鼻をつく。
「……」
……病室……?
なんで……ここに……
「もー、びっくりさせないで下さいッスよ。蕾の話をしてたら、急に反応しなくなるんスから」
「……え」
驚きを隠せずモルを見つめていると、軽い溜め息をついた後、顔を近付けながら真剣な目を向ける。
「信用、しないで下さいッス」
……え……
チラッと逸らされる視線。
その先を辿っていけば、僕の左腕に繫がれた管の先にある──点滴袋。
「姫は気付いてないかもしれませんが……ここは、担ぎ込まれた病院とは違う病院なんッス」
「……っ、」
「姫の居場所を突き止めて、面会希望したら……何故か|監視達《アイツら》が付いてきたんッスから」
ゆっくり黒眼だけを動かせば、確かに白衣を着た人物がひとり、視野の中にぼんやり映る。
「この様子だと、恐らく監視カメラや盗聴器も何処かに仕掛けられてる筈ッス……」
……監視。
なん、で……
助かったんじゃ、なかったの……?
突然襲いかかる不安。
乱れる呼吸。痺れる腕。
芯の方から冷えていく身体。
思い出されたのは──理不尽に連れ去られ、人の尊厳を踏み躙るような行為の数々……
「彼から離れなさい!」
白衣姿の監視人が、足早に近付く。
それに反応し、両手を胸の前に掲げたモルが、四方八方から迫り来る監視人達の様子を覗いながら立ち上がる。
「……モルっ、」
やだ……
やだ、やだ、やだ。
このまま僕を、一人きりにしないで……
「大丈夫ッス。また助けに戻ってきますから……」
縋り付こうと手を伸ばした僕に、太陽のような明るい笑顔を浮かべてみせる。
「信じて、待ってて下さいッス」
バタバタッ、
駆け付けた監視人達に捕らえられ、後ろ手で拘束されたモルが出入口の方へと引き摺られていく。
「……」
……やめて……
連れて行かないで……!
そう叫んでしまいたいのに……上手く声が出てくれなくて。
やっとの思いで出てきたそれは、酷く滑稽な程小さくて。
病室のドアが開き、無抵抗のモルが外へと連れ出されてしまう。
──待って!
管に繫がれた腕を思いっきり伸ばし、ありったけの声で叫ぶ。
行かないで──!
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