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第7話
そっと掠める、僕の頬や首筋。
その度に広がる……微かな痺れと甘い快感。
「……」
何でだろう、落ち着かない。
蜂蜜のように甘く蕩けた瞳に真っ直ぐ見つめられ、トクトクと高鳴ってしまう心臓。
こんな感情が生まれるのはおかしいと思いながらも、合わせた視線がなかなか外せなくて……
「……そんなに見たら、恥ずかしいよ」
瞬きをしながら何とか目を逸らし、睫毛を伏せる。
「やっぱり可愛いな、さくらは」
ふっと、視界の端で微笑んだアゲハが僕から手を離す。
*
「……で、さくらはどうしたい?」
突然。
アゲハの声がして、沈んでいた意識のようなものが浮上する。
重い瞼を懸命にこじ開ければ、白を基調とした洗面所の椅子に座っていた。
ジャギ、ジャギ……
「……え」
美容室で使う黒いナイロン製の布が首に巻き付けられ、鏡越しに映るアゲハが僕の髪の毛先にハサミを入れている。
……なん、で……
長い髪が似合うって、さっき僕に言ったばかりなのに。
「……どう、して……切るの……?」
僕が溢した言葉に反応したアゲハが、鏡越しに驚いた顔を見せる。
「もしかして、覚えてない?」
「……」
じっと見つめたまま小さく頷けば、軽い溜め息をついたアゲハが僅かに口角を持ち上げる。
「髪を切って欲しいって言ったのは、さくらだよ」
え……
空気が、止まる。
ぽっかりと空いた、心の奥の真っ暗な穴──覗き込めずに尻込みする僕を、不安と恐怖が嘲笑う。
「……そう、だっけ」
「うん。気分転換にって」
「……」
チャキ、チャキ、チャキ……
二本の指で僕の横髪を挟み、ハサミの先を立てて手早く毛先を切る。切り終わると櫛に持ち替え、丁寧にその部分を梳かす。
「それにしても、懐かしいなぁ。
ほら、小学生の頃。『僕も美容室に行きたかった』って、僕に泣きついてきた事があったじゃない?」
「……」
「あの時は、工作用のハサミしかなかったから。こうして僕がさくらの髪を切ったよね──」
はらりと落ちる短い毛。
僕から切り離された瞬間から、それはもう……僕のものではなくなっていく。
「……」
一体、なんの話をしてるんだろう。
僕がいつ、髪を切って欲しいって言ったの?
泣きついたって、なに?
……そんなの、知らない。
考えれば考える程、真っ暗な闇が広がっていき……心の奥を深く抉る。
「……アゲハ、は?」
美容師気取りのアゲハから視線を外し、ぼそりと呟く。
「どうして、髪を長く伸ばしてるの?」
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