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第11話
×××
ジュー、
出汁醤油の焼ける音と共に広がる、香ばしい匂い。
卵焼き用の四角いフライパンの端から、固まりかけた卵液を端からくるんでいけば、だし巻き卵の形へと整っていく。
「……おはよ」
キッチンの入口から聞こえる、アゲハの声。
「早いね。ちゃんと眠れた?」
火を止め、僅かに口角を持ち上げながら振り返る。
起きたばかり……ではなさそうな程、整っている髪。爽やかな表情。
「うん……卵焼きのリベンジ、したくて」
「そっか」
「味噌汁も、作ってみたんだけど……」
「へぇ。嬉しいな」
答えながら微笑むアゲハが、キッチン内に入ってくる。
慌てて目を伏せ、ガス台の方へと向き直ると、焼いたばかりのだし巻き卵を平皿に移す。そして、予めだし汁で溶いておいた味噌を、味噌汁の手鍋に戻し入れる。
と……
「じゃあ、少し早いけど……朝ごはんにしようか」
すぐ背後にから感じる、アゲハの気配。
脇から伸ばされた手がガスコンロの火を付ける。
「さくら」
耳元で囁かれる声。
肩越しに感じる視線。
「……」
ゾクッとし、硬直する両腕。
何とかして避けたいのに、上手く足が動いてくれなくて。身体を縮込ませながら、それでも逃げようと意を決すれば、背後からもう一つの腕が伸び、それを阻む。
「……ありがとう」
項に掠めるアゲハの鼻先。首元に掛かる、熱い吐息。
「……」
沸々と、味噌汁の鍋肌を撫でながら現れる小さな気泡。
密着する、アゲハの身体。
僕の腰に当たる下肢の中央に、湿った熱が集まり……少しずつ、硬さを増していて……
「……っ、ごめん」
僕を捕らえた腕が緩み、離れていくアゲハの熱。
「怖がらせちゃった、かな……」
そう言われて初めて、酷い寒気に襲われたかのように酷く震えているのが解った。
「……」
カチ、
沸騰する味噌汁をアゲハが止める。
直ぐ背後にあった気配。それがスッと消えたのを感じると、小さく溜め息をつく。
*
「いただきます」
ダイニングテーブルに並んだ朝食の前で、両手を合わせる。
僕が作っただし巻き卵の他に、アゲハが作り置きしていた金平牛蒡と小松菜の煮浸し。
こうしてみると、王子様のイメージからは随分とかけ離れている。
前から思っていたけど、アゲハはおばあちゃんから料理を教わっていたんだろうか。
僕が思い出せる料理の味は、おばあちゃんが作ってくれたものだけで。その味付けに、よく似ているから……
「……ん、美味しい!」
一番に卵焼きを口に含んだアゲハが、そう言って嬉しそうな笑みを浮かべる。
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