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第12話
「……よかった」
小さくそう答えながら、味噌汁の椀に箸先を入れる。
正直自信なんてなかったから、お世辞だったとしても嬉しい。
……でも。
おばあちゃんがアゲハに料理を教えている姿なんて、見た覚えがない。
なのに何で、おばあちゃんと同じ味が……
『信用、しないで下さいッス』
脳裏に過る、モルの声。
夢で聞いたその声が、妙にハッキリと僕の脳幹を響かせる。
「……」
解らない。
だけどこんな些細な疑問さえも、聞いたらいけないような気がする。
「……今日は少し、外に出てみようか」
突然の提案に、思わず顔を上げる。
アゲハをじっと見ていれば、その表情がみるみる柔らかくなる。
「あれからずっと、考えてたんだ。
幾ら本調子じゃないからといって、このまま部屋に籠もりっきりも良くないんじゃないか、って」
「……」
「ほら、昨日言ってたじゃない。気分転換したいって。……って、覚えてない?」
アゲハを見つめながら小さく頷けば、僕を捉えていた綺麗な瞳が一瞬逸らされる。
「そっか……うん。じゃあこの話は、これでお終い」
「……どうして?」
つい、ポロッと口から溢れてしまう。
何かを聞き出すのは危険だって解っていたのに。僕の知らない所で、僕が何をしてるのかが解らないことが……酷く怖い。
「どうして、止めちゃうの?」
「……」
「僕、なんて言ったの?」
「……」
心が、壊れてしまいそう。
僕を形作っているこの身体だけが、無理矢理生かされているみたいで。
アゲハは、こんな僕を望んでるの?
こんな……生きているかもよく解らない、こんな僕を。
「気分転換がしたいって言ったんだ。少しでいいから、外に出たいって」
「……」
「もし無理なら、せめて髪を短く切って欲しいって……」
……それで……髪を……
消えてしまった欠片が、不透明ながらひとつずつ僕の手元に戻ってくる。
それが本物かどうかなんて、確かめようがないけど……
「……そう、だったんだ」
でも、今はそれを受け止めるしかない。
消えてしまった欠片の行方なんて……僕には解らないから。
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