16 / 24

第16話

痩せ細った身体。 やつれてカサカサとした顔。 なのに──鋭く吊り上がった目は血走り、殺意の念が強く籠められていて…… 「───止めろ、母さんッ!」 アゲハが、その身体を羽交い締めにする。 「どきなさいっ」 母の片腕が後ろへと回り、背後にいるアゲハに向かって刃先が空を切る。 その刹那── キィィィ──ンッ、 脳を劈くほどの耳鳴り。 思わず頭を抱えるようにして両耳を塞げば、僕の意識だけが真っ暗闇の中へと沈んでいく。 鋭く光る刃先。 それが……ゆっくりとアゲハの首元に当てられ…… 「──っ、」 息が、止まる。 目が……離せない。 胸が爆発しそうなほど心臓が激しく暴れ回るだけで……全然、身体が言うことを聞いてくれない。 「キ″ィャアア″ァア──!」 空気を切り裂くような叫び声。 その瞬間、どろどろと目の前の闇が溶けていく。 開けた視界の先に見えたのは──マンションのエントランス前で狂乱して叫ぶ母に駆け付け、押さえつける白衣姿の男性達の姿だった。 「大丈夫ですか?」 男性の一人が近付き、僕の目の前で腰を落とす。 「……」 遮られる視界。だけど……全てを消し去ってはくれなくて。今更になって、身体が酷く震える。 ……殺そうと、した…… 母が……僕を…… ……アゲハ、まで…… 「さくらっ!」 呼ばれて、視線を上げる。 僕を捉えたアゲハの眼が、今まで見たこともないほど鋭く尖っていた。 「……この度は、本当に申し訳ありません」 目の前にいた男性が立ち上がり、アゲハに頭を下げる。 「お怪我はありませんか?」 「……いえ、大丈夫です」 男に話し掛けられた途端、アゲハの表情に冷静さが戻る。 「本当に、何と言っていいか……。病室を抜け出しているのに気付くのが、遅れてしまい……」 「……いえ」 答えながら片手を上げ、話を遮るアゲハ。 男と入れ違うと僕の前で腰を落とし、目線の高さを合わせる。 「何処か痛い所は?」 僕を包み込むような優しい眼差し。 瞬きするのも忘れ、見つめながら小さく首を横に振る。 「……よかった」 「……」 「ごめん。怖い思い、させて」 震える声。 涙を滲ませ笑みを溢すアゲハが、僕を強く抱き締める。 その手が、僅かに震えていた。

ともだちにシェアしよう!