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第16話
痩せ細った身体。
やつれてカサカサとした顔。
なのに──鋭く吊り上がった目は血走り、殺意の念が強く籠められていて……
「───止めろ、母さんッ!」
アゲハが、その身体を羽交い締めにする。
「どきなさいっ」
母の片腕が後ろへと回り、背後にいるアゲハに向かって刃先が空を切る。
その刹那──
キィィィ──ンッ、
脳を劈くほどの耳鳴り。
思わず頭を抱えるようにして両耳を塞げば、僕の意識だけが真っ暗闇の中へと沈んでいく。
鋭く光る刃先。
それが……ゆっくりとアゲハの首元に当てられ……
「──っ、」
息が、止まる。
目が……離せない。
胸が爆発しそうなほど心臓が激しく暴れ回るだけで……全然、身体が言うことを聞いてくれない。
「キ″ィャアア″ァア──!」
空気を切り裂くような叫び声。
その瞬間、どろどろと目の前の闇が溶けていく。
開けた視界の先に見えたのは──マンションのエントランス前で狂乱して叫ぶ母に駆け付け、押さえつける白衣姿の男性達の姿だった。
「大丈夫ですか?」
男性の一人が近付き、僕の目の前で腰を落とす。
「……」
遮られる視界。だけど……全てを消し去ってはくれなくて。今更になって、身体が酷く震える。
……殺そうと、した……
母が……僕を……
……アゲハ、まで……
「さくらっ!」
呼ばれて、視線を上げる。
僕を捉えたアゲハの眼が、今まで見たこともないほど鋭く尖っていた。
「……この度は、本当に申し訳ありません」
目の前にいた男性が立ち上がり、アゲハに頭を下げる。
「お怪我はありませんか?」
「……いえ、大丈夫です」
男に話し掛けられた途端、アゲハの表情に冷静さが戻る。
「本当に、何と言っていいか……。病室を抜け出しているのに気付くのが、遅れてしまい……」
「……いえ」
答えながら片手を上げ、話を遮るアゲハ。
男と入れ違うと僕の前で腰を落とし、目線の高さを合わせる。
「何処か痛い所は?」
僕を包み込むような優しい眼差し。
瞬きするのも忘れ、見つめながら小さく首を横に振る。
「……よかった」
「……」
「ごめん。怖い思い、させて」
震える声。
涙を滲ませ笑みを溢すアゲハが、僕を強く抱き締める。
その手が、僅かに震えていた。
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