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第17話

××× 僕をソファに座らせ、ブランケットを掛けてくれたアゲハが直ぐ傍にしゃがむ。 優しげに見上げる瞳。僅かに口角を持ち上げる唇。冷静さを含んだその表情は、あんな出来事があったのを感じさせないほど落ち着き払っていた。 「……心配しないで。もう二度と、あんな思いはさないから」 僕の両手を拾って重ね、包み込むようにして握る。 離さないで──そう願ったアゲハの手先が冷え、微かに震えていた。 「そろそろ、診察を始めてもいいかな?」 パタンとドアを閉め部屋に入ってきたのは、白衣姿の精神科医。恐らく、アゲハが呼んだんだろう。 空いたソファに持っていた黒鞄を置き、取り出したカルテをテーブルの上に置く。 「……はい」 その様子を窺っていたアゲハが僕に向き直り、取り繕ったような笑顔を残しながら立ち上がる。 「……」 手の甲に残る温もり。 それが、次第に冷たい空気に奪われていく。 注射を打たれた後、手首を指で軽く押さえられ脈拍が計測される。 診察開始時に行われるこの一連に、一体なんの意味があるんだろう。両腕に残る無数の注射針の痕が……自分でも痛々しく見える。 「では、横になって」 暫く計測をしていた医師がそう言い、肘掛けにクッションが敷かれる。指示に従って身体を倒し、頭をそこに預けながら両足をそっと床から離す。 「……目を瞑って。いま君がいる場所はわかるかな?」 「ソファの上」 「そうだね。……でも、感じないかな。カモメが鳴きながら、頭上を羽ばたいているのを。このソファごと大海原に浮かんで、ゆらゆらと波に揺られているのを」 閉じた瞼にチラチラと掛かる影。 ……あれが、カモメ? ゆらゆらと揺れている感覚がし、遠くで波の音まで聞こえる気がする。 「では、今から過去に向かって旅立ってみよう。10年前というと、君は何歳かな?」 「……5歳」 「そう、5歳だ。5歳の君は、いま何処にいるのかな?」 「……」 何処……だろう。 目の前に広がるのは、真っ暗な闇ばかりが広がっている。 寒くて、狭くて……怖い。 畳んだ膝を抱え、じっと息を潜める。 「怖がらなくていいよ。……さぁ、教えて」 穏やかで落ち着いた声。天から聞こえるそれに従い、震えてしまう唇を小さく開けた。 「……おしおきの……へや」

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