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第18話
口にした途端、全身が震える。
声の主が誰なのか……解らない。
カチャ、
戸の開く音に、両肩が跳ね上がる。
隙間から射し込まれる細い光が太るにつれ、僕の足元にまで迫る。それから逃げるように踵をお尻に引き寄せ、物陰に隠れながら様子を窺えば、眩い光の中に見えたのは……小さな人影。
「それは、誰だか解るかな?」
戸の隙間から現れる手。決して闇との境界線を越えず、ゆっくりと僕に向かって伸びる。
「……アゲ、ハ」
どうして……飛び込んできてくれないの?
僕を抱き締めて、もう大丈夫だよって言ってくれないの?
……いつもみたいに。
「それは本当に、アゲハくんなのかな? もっとよく近付いて、確かめてごらん」
「……っ、」
耳元で囁かれる、残酷な声。
そんなこと言われても、近付く勇気など持ち合わせてはいない。
もし万が一、アゲハじゃなかったとしたら……
『……さくら』
微かに聞こえる、アゲハの声。
その刹那、浅い溜め息と共に身体から緊張感が少しだけ解れる。
……やっぱり、アゲハだった。
膝を抱く腕を緩め、そっと片手を床につく。と、その指先と片頬に光と闇の境界線が掛かる。
『汚らわしいっ!!』
光の中に見えたのは──ナイフを片手に握る母。
『はや、く……逃げて──!』
その身体を背後から押さえるアゲハ。
「……そう、これが真実だ」
「……」
「アゲハくんが君の元へ飛び込んでいけなかった理由は、君を助ける為だったんだよ。──解るかい?」
……え……
そん、な……こと……
頭が、おかしくなる。
鬼の形相で、お仕置き部屋に押し入ろうとする母から目が離せない。
……身体が、動かない。
「……」
アゲハは、悪くない……
……悪いのは、逆恨みしていた……僕の方……
『……騙され、ないで!』
僕を睨み付ける母が、喉奥から苦しそうな声を出す。
『信じちゃ、ダメよ……』
強くなっていく光に、ドロドロと母の顔が溶けていく。
まるで、母の声を遮るかのように。
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