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第20話
……え……
母に似た女性の声が、僕に警鐘を鳴らす。
『よく思い出して、さくら……』
憂いを帯びた、優しげな声。
穏やかで、あたたかくて……不思議と胸裏の柔らかい部分にまで心地良く反響する。
こんな声で、母に話し掛けられた事なんてあっただろうか。
……思い出すって、なにを?
『本当の、真実よ』
……本当の、って……
僕を殺そうとしたのは、本当じゃないか。
『……そうね。でも、よく思い出して。
この部屋に現れた本当の人物は、だれ?』
誰って……アンタじゃないか!
『本当に、そうかしら』
そうだよ。
だって、ナイフを持ったアンタが、僕を──
『ほんとうに?』
そうだ。
それをアゲハが、止めてくれたから──
『……よく、思い出して』
何度も畳みかけてくる声。
優しく、真綿で首を絞められるかのよう。じわじわと僕の心が圧せられる。
……いやだ。
身体を小さく丸めたまま、両耳を塞ぐ。
『逃げないで。ちゃんと思い出すの。
このままでは取り返しがつかなくなってしまうわ』
……え……
『もう、半分近く消えているのよ。
全てを失ったら……元には戻れない』
「……!」
欠けた記憶のピース。
失った後になってしまえば、それがどんなに大切なものだったのかまでは思い出せない。
僕の中から消えたそれらは、どれだけの価値があったんだろうか。
『本当のさくらでは、無くなってしまうのよ』
……本当の僕って?
どんな僕でも、僕は僕だ。
今のままでも充分幸せを感じるし、これでいいとも思ってる。
僕を憎んでいた癖に。おかしな事ばかり言って、これ以上僕を混乱させるな。
『忘れる事は、そんなに大切?』
……大切な時もある。
アンタに襲われかけた出来事なんか、正にそうだ。
『そうね。それも一理あるのかもしれない。……でも、そうやって忘れていった先に、一体何が残るというの?』
──カチャ、
突然ドアが開き、細い光が足元まで伸びる。
『思い出して、さくら……
あなたにとっての大切な人まで、消えてしまうわ』
……そんな、こと……
足先を引っ込め、広がっていく光から逃れる。
『もう、時間がないの』
母に似た声が、僕を急かす。
『あの向こうから現れるのは、誰?』
……そんなの、わからないよ!
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