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第21話

心の中で叫んだ途端、それまでの空気感がパッと消える。 「……」 仄暗い部屋…… ……僕の、部屋だ。 肌触りのよいベッドと柔らかな掛け布団を感じ、安堵の溜め息をつく。 寝返りを打った後、また眠ってしまったんだろうか。 『よく、思い出して』──夢にしては妙にリアルで。僕を諭すような声が、まだ耳の奥にこびりついて離れない。 開いた戸の向こうに、誰がいたんだろう。 ナイフを持った母じゃないのだとしたら、一体誰が…… ──コンコンッ 突然のノックに、跳ね上がる心臓。 やけに大きく聞こえたその音が、僕の思考の糸を簡単に断ち切る。 「……さくら?」 ドア越しに聞こえるアゲハの声。 穏やかに響くその声に、握りしめた拳が僅かに緩む。 「入るよ?」 カチャ── そっと開かれるドア。その隙間から射し込む眩い光。伸びる人影。 ドア枠に掛かった手が、壁伝いに這っていく。 ──その刹那、息をのむ。 折檻部屋での光景と重なり、じわじわと脳が圧し潰されていくような異様な重苦しさに襲われる。 「さっき、何か叫んでいるような声がしたけど……怖い夢でもみた?」 パッ、 部屋の照明が点くと、柔く微笑んだアゲハがベッドに近付く。 心配そうに話し掛けながら。僕の異変など気付かない様子で。 ベッド端に腰を掛けたアゲハが、僕の顔を覗き込みながらその横髪を梳く。 「大丈夫だよ。お兄ちゃんが傍にいるからね」 サラサラと流れ落ちるアゲハの横髪。そう囁きながら、その横髪を耳に掛ける。 そこから覗く、首元の手術跡。 『信じちゃ、ダメよ……』 ──ツキンッ、 鋭い痛みが走り、思わずこめかみを押さえる。 ギュッと目を瞑った筈なのに、その瞼の向こうに見えるアゲハの首元には──鋭く光る金属片。 目を凝らしてよく見れば、それはナイフの刃先へと変貌し…… 「もし心配なら……何処かに引っ越そうか」 瞼を持ち上げた途端、飛び込んできたのは──長い睫毛を下ろし、僕を見つめる物憂げな瞳。 「……」 一体、何処まで疑えばいいんだろう。 何処まで信じたら、いい……? いま頼れるのは、アゲハしかいないのに…… 「母も知らない、何処か遠くに」 アゲハに切りつけたのは──母だ。 僕を助けようとして、首を…… ……そう、思いたいのに。 「学校……」 小さく唇を動かし、声を絞り出す。 「この近くの学校に、通ってみたい」

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