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第22話
×××
あれから、精神薬を辞めた。
アゲハの前では飲むふりをして、袖口の中に落として隠す。その後トイレで流し、証拠を隠滅。
突然の断薬に、心身が引き千切られるような苦しみに襲われながらも、もやが掛かったようにぼんやりしていた頭が、少しずつ鮮明になっていく。
そうして思い出したのは、モルが僕に『信じるな』と訴えていた夢。
それから……寛司。
失われていた記憶の欠片を見つけ、ひとつひとつ拾い集めていくうちに、ようやく見えてきた真実──
「明日、学校に行って先生とお話ししてくるから。留守中は気を付けるんだよ」
夕食中。向かい合って座るアゲハの背後に闇が掛かる。
ザザッ、
ザッピングしながら首元に現れる、刃渡り10センチ程の折りたたみ式ナイフ。
その柄を握る手が、次第に色づいていく。
「……うん」
長かった……
ただ確かめるだけに始めた行為が、こんなに長引くとは思わなかった。
細くて白い、女性的な手。
きっと母だ。まだ顔までは見えないけど。
これでアゲハを信用できる。
もう、悪夢にうなされる事も、振り回される事も無くなるんだ……
「帰ったら卵焼き、また作ってくれると嬉しいな」
僕に微笑みかけるアゲハと、自然に目が合う。
「……ん」
ただそれだけで、恥ずかしくて。答えながら目を伏せる。
茶碗を持ち、箸先でご飯を摘まむと、ふと何かを感じて視線を上げる。
肩口の奥から、薄らと見え隠れする人影。
ご飯を口に運びながら、その影を盗み見ていれば──
──え、
仄かに香る、甘ったるい匂い。
中性的ながら妖艶な顔立ちの人物が、蜂蜜を含んだような瞳でまっすぐ僕を射抜く。
……だ、れ……?
視線がぶつかったまま、逸らせない。
熱くなる身体。乱れる呼吸。
何処か懐かしさを感じながらも、激しく鼓動を打つ心臓をひねり潰されるような恐怖が襲う。
……あれは、母なんかじゃない。
瞬きもできず、持っていた茶碗を静かにテーブルに戻す。
「……」
鮮明に色づく幻影。艶やかで形の良い唇が、ゆっくりと動く。
『……兄弟は、仲良くしなくちゃね』
不敵に溢す、意味深な笑み。
傷跡に当てられていたナイフが、僅かに食い込む。
その刹那──全てがひっくり返される。
この光景の意味が、理解できないまま。
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