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序曲 2 side奏多

九条 凪 俺は大学内のことには疎いほうだけど そんな俺でも彼のことは知っている ピアノ専攻の2年生 専攻の中での成績は一番らしいけど それは本当に実力なのか、疑問符が付くという それは 彼がこの大学で唯一のΩだから αの教授に身体を差し出して成績水増ししてもらってるんだって まことしやかに囁かれてるのを耳にしたことがある その時はΩってだけでそんな風に言われるなんて 可哀想なやつだって そう思っただけだけど… 実物を目の当たりにすると なんとなくそう言われるのもわかる気がする 顔は人形みたいに整ってて 男だと信じられないくらい美人だけど それだけじゃない なんていうか… 凄み、みたいなものがある その瞳で見つめた者全てを虜にしてしまいそうな 壮絶なまでの凄みが………… 「…で?なんの曲、やるの?」 その完璧な曲線を描く横顔のラインを見つめながら、ぼんやりとそんなことを考えていると。 また不機嫌そうに顔をしかめながら、訊ねられた。 「あ、えっと…クライスラーの美しきロスマリン」 「ふーん…楽譜は?」 手を差し出され、要求されるがままに楽譜を手渡して。 「…一応、念のために聞くけど…伴奏とかしたこと、ある?」 「ないよ。今まで頼まれたこと、ないし」 一縷の望みを託しながら聞くと、あっさりと否定される。 ないのかよ… 絶対、もう無理じゃん… 絶望感にうちひしがれる俺には目もくれず、九条凪はしばらく楽譜をペラペラと無言で捲ると。 「じゃあ、ちょっと弾いてみて」 まだ蓋の閉まったままのピアノの前に座り、ちょこんと首を傾げながら、そう言った。 「…え?」 そんな仕草も、めちゃくちゃ可愛いな…なんて考えてた俺は、一瞬何て言われたのか理解できなくて。 また、彼の眉間に深い皺が刻まれる。 「あのさ…あんた、やる気あるわけ?この試験の成績次第で、なんか大変なことになるんじゃないの?そう牧野くんに聞いたから、こっちだってわざわざ時間割いてんのに…。やる気ないんなら、俺は今すぐ降りるけど?」 腕組みをして、挑発的な冷たい目線で睨み付けられて。 頬をパンと叩かれたように、目が覚めた。 そうだ 今はこいつに構ってる場合じゃない それに… いくら美人だからって その偉そうな態度は気に入らねぇ! 「…やる気は、あるに決まってんだろ」 見てろよ、このやろう! 俺の実力、見せてやろうじゃねぇか! 感情のない人形みたいな顔を、思いっきり睨み付けて。 俺はバイオリンを肩に乗せた。

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