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序曲 9 side奏多

その後も、ぎゃーぎゃーと大声で文句を言い続けていたけど。 疲れたのか、諦めたのか、スタジオに着く頃にはおとなしく俺に手を引かれて歩いていた。 「…ここ、なに?」 「スタジオ」 「スタジオ…?ってか、あんたの背中の、バイオリンじゃないよね?」 問いかけには答えず、入り口の自動ドアを潜ると。 「奏多、お疲れ」 スタジオのオーナーである従兄弟の圭人さんが、軽く手を上げて挨拶してくれた。 「お疲れっす」 「あれ?その子、初めて見る顔だなぁ。もしかして智也に代わる新しいメンバー?」 「いや、ただの見学者」 九条を見て首を傾げた圭人さんに答えると。 「…お邪魔します」 九条はそう言いながら、ちょこんとお辞儀をする。 驚いた。 まさか、そんな礼儀正しい態度を取るとは思ってなかった。 もっと傍若無人な奴かと思ってたのに… 「そっか。楽しんでってねー。奏多のギター、最高だから!」 「あ…はい。ありがとうございます」 親指を立てて、パチンとウインクする圭人さんに、もう一度お辞儀をして。 「…ギター」 ちょこちょこと俺の後をついて歩きながら、九条がぼそっと呟いた。 「おう」 頷きながらスタジオのドアを開くと、九条の足がピタリと止まる。 振り向くと、切れ長の瞳を大きく見開いて、スタジオの真ん中に鎮座しているドラムセットを仰視していた。 「ま、適当に座って」 促すと。 文句を言うだろうという予想に反して、素直に頷き、スタジオの隅に置いてあったパイプ椅子にちょこんと座る。 そうして、物珍しそうにスタジオ内をぐるりと見渡した。 「こういうとこ、初めて?」 「…当たり前…」 訊ねると、九条らしくもないぼんやりとした返事が返ってきて。 でもその瞳は、好奇心に満ちているように、輝いている。 その反応に満足しつつ、ケースから取り出したギターをアンプに繋いで。 先制パンチを繰り出すつもりで、Cのコードを思いっきり鳴らした。 ビリビリと空気を震わせる音に、九条がビクッと震える。 そのまま、1ヶ月前に書き上げた曲を弾き始めると、そのブラックダイヤの瞳が吸い付くように俺を見つめた。 「…どう?」 刺さるような視線を心地よく感じながら、最後まで弾ききり。 訊ねると、なぜか動揺したように瞳が揺れる。 「いや…どう、とか、聞かれても…」 でも、その雰囲気から拒否するような感じはなくて。 「じゃあさ、ちょっとこれ聞いてみてよ」 勢いづいた俺は、自分のスマホを無理やり九条の手に押し付けた。 「え?なに?」 「この曲のキーボードパート」 「…は?」

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