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序曲 10 side奏多
「やだよ!」
「なんでよ。聞くくらい、いいじゃん。俺のギター、気に入ってくれただろ?」
そう言うと、一瞬言葉に詰まったけど。
「やだ!俺にキーボード、やらせる気だろ!」
ぷいっと横を向いて、俺にスマホを突き返してきた。
「…ふーん」
俺はそれを受け取らず、わざと挑発するように笑って見せる。
「…なんだよ」
「自信ないの」
「はぁ!?」
「俺、九条なら一回聞いただけで弾けると思ったんだけどなぁ」
あの一緒にいた3日間で
こいつがかなりな負けず嫌いだってことはわかってる
特に音楽に関しては
「…そんな挑発には、乗らないよ」
「あっそ。でもさ、九条だって俺とやりたいだろ?」
「そんなわけ…」
「あの試験の日の感触、俺は忘れられないけどなぁ…そっちは違うの?」
言葉を被せると。
今度こそ、言葉に詰まった。
そう
あの試験の日の演奏
俺のバイオリンと九条のピアノの音色が合わさり
混じりあって
それまでに感じたことのない快感を覚えた
言葉にしなくても
目線すら合わせなくても
互いの息遣いを感じ
互いの音を聞くだけで
今あいつがどんな音を奏でたいのか
俺がどんなメロディーを奏でたいのか
手に取るようにわかって
音楽に身を浸し没頭する
その喜びと幸せ
生まれて初めてのその感覚を
おまえだって忘れられないはずだ
だからもう一度って
そう思っていたのに……
「…あれは、バイオリンとピアノだろ」
また視線を外しながら、九条がぼそっと呟く。
段々わかってきた。
これは、こいつが迷ってるときの癖だ。
「楽器が違ったって、俺たちは同じだよ」
確信をもって、そう言うと。
おずおずと視線を戻してきて。
睨み付けるように俺を見つめながら、しばらくの間考え込んでいたけれど。
「…サイアク」
大きく息を吐き出して。
俺に突き返そうとしてたスマホを、自分の方に引き寄せた。
「お?やる気になった?」
「うるさい、黙れ」
その反応に嬉しくなって、つい揶揄うような調子で言うと。
悪態を吐き、ぎろりと俺を睨みながらも、手の中のスマホをタップする。
途端、キーボードの旋律が流れ出して。
集中するように、そっと目を伏せた。
その横顔に、思わず釘付けになる。
うわ…
睫毛、長っ…
肌だって
まるで白磁で出来た人形みたいに
白くて滑らかで…
顎のラインはシャープなのに
口元はなんだか甘くて
ホント、奇跡みたいに綺麗なやつだな…
あの柔らかそうな唇に触れたら
どんな感触がするんだろ……
ぼんやりと、そんなことを考えていたら。
不意にぱちりと目を開いた九条に見つめられ、ドキッと心臓が跳ね上がった。
「…なに?」
「いや、別に…」
まさか、横顔に見惚れて邪な妄想してました、なんて言えるわけもなく。
薄笑いを浮かべて誤魔化すと、九条は思いっきり不審者を見るような蔑んだ目で俺を見て。
「これくらい、出来るけど?あんたこそ、そんなだらしない顔でやれんの?」
反対に俺を煽るように、唇の端に笑みを浮かべた。
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