13 / 60
序曲 13 side奏多
夏生に学内のカフェテリアに連れていかれ。
向かい合わせに座った瞬間、身体中の空気がなくなるんじゃないかと思うほどの溜め息を吐かれた。
「なんだよ?」
「なんだよ、じゃないよ。奏多、最近学内でめちゃめちゃ話題になってんの、知ってる?」
「話題?なんで?」
なんのことかと訊ねると、夏生が目線だけで辺りを差すから。
首を捻ってぐるりと見渡すと、確かにあちらこちらで俺を伺うような視線を感じる。
「間抜けなαが、Ωのフェロモンに当てられてその尻を追いかけ回してるって」
声を潜めて、夏生が言った。
「…間抜けって、俺のことか」
「そうでしょ」
「ふーん」
不躾な視線を送る奴らを、真っ正面から睨み付けてやると。
どいつもこいつも悪魔でも見たような顔で、慌てて目を逸らす。
「…別に、なに言われようと、どうでもいいな」
あんな奴らにどう思われようが
どうでもいい
名前も知らない
どんな人間かもわからない奴の言葉なんて
俺には関係ない
「…ホント、強いよね、奏多は…」
「別に普通だろ」
「いや、強いよ。強すぎるくらい」
「…っていうか、そんな話をするために、こんなとこに連れてきたのか?だったら俺、帰るけど」
いまいち要領を得ない夏生との会話に、苛立ちを感じて。
少し強い口調で言って、立ち上がろうとすると。
「待って」
慌てて、夏生が俺の腕を掴んでくる。
「言いたいことあるんなら、さっさと言えよ」
「…本当に、九条さんを口説き落とすつもりなの?」
目に力を入れて見つめると、ようやく本題を切り出した。
「なに?」
まさかそんな話だとは思わなくて。
「おまえさ…」
「あの人はΩだよ?わかってんの?」
今さら何を…と言い出そうとした俺を、夏生が強い声で遮る。
「…だから、なんだよ。あいつがΩだから?だから、なんなんだよ。おまえだって知ってんだろ。九条のピアノをさ」
他の誰でもない、夏生がそんなことを言い出すなんて信じられなくて、つい俺も口調が刺々しくなってしまった。
「九条さんのピアノなら、奏多よりよく知ってるよ。俺だって、一緒にやれたら楽しいだろうなって思う」
「だったら…」
「だけど、あの人はΩで、奏多はαなんだよ」
「だからっ…」
「万が一何かあった時、αの奏多がΩの九条さんを傷付けないって保証、あるの?」
「え…?」
てっきり、九条がΩだからバンドに入れるのを嫌がっているのかと思ったのに。
夏生は全く予想外のことを言った。
「あの人さ…たぶん、なんか訳ありなんだと思う」
「訳ありって…なんの?」
「それは、わからないけど…最近のΩってさ、あんなあからさまなチョーカーなんて着けないじゃん?」
「え?そうなの?」
「そうなの?って…奏多って、本当にΩのこと知らないんだね…」
ともだちにシェアしよう!