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序曲 14 side奏多

小馬鹿にしたように溜め息を吐かれて、いらっとした。 「悪かったな。なんも知らなくて」 「最近はさ、すごく効く抑制剤が出回り始めてるから、突発的にフェロモン振り撒いて襲われる、なんて事件も少なくなってるしさ。首をガードしないΩが増えてるんだよ」 不機嫌を隠さず、わざとぶっきらぼうに言ったけど。 それに気付いてないのか、わざと無視してるのか、夏生は目の前のアイスコーヒーの氷をストローでカラカラと回しながら、淡々と話を続ける。 「それに、Ω擁護派の第一人者だった前の総理大臣の斎藤伊織が5年前に暗殺されてから、世間でのΩの立場は苦しいままだし…」 「それは、俺でも知ってる」 当時はテレビも雑誌も大騒ぎだった 史上最年少で総理大臣になった斎藤伊織が プライベートな夕食会の最中に銃撃を受けて亡くなった 犯人は総理のSPだったαの男 α至上主義かつΩ排除主義の過激派で 動機は斎藤総理が当時推し進めていたΩの為の雇用機会均等法の成立を阻止するためだったって 事件をきっかけに その法案は結局廃案になり だからって昔のようなΩへのあからさまな差別が増えたわけではないけど 差別自体は厳然と残っている そういや 総理と一緒にいた友人も亡くなったって言ってたよな… 庇ったその人は即死で 斎藤総理も三日後に死んだとか… α至上主義なんて、くだらねぇ αだからなんだって言うんだ αでもβでもΩでも みんな同じ人間なのに 「だから、そんな首輪なんか着けて、わざわざ自分はΩです、なんていうΩは今は殆どいないんだよ。どこでどんな目に合うか、わからないからね。なのに、あの人はΩであることを隠してない。それはさ、なんか理由があるからなんだと思うんだよね。Ωであることに誇りを持ってる、ってわけでもなさそうだし…」 当時のニュース映像の記憶を頭の奥から引っ張り出していると、夏生が考え込むように呟いて。 「…もしかして番がいて、噛み跡を隠してるのかなーと思ってたんだけど」 「それはないだろ」 続いた言葉を、俺は自分でも思わぬ早さで遮っていた。 「俺でもわかるぞ。番のいるΩは、番以外のαに触られると拒否反応起こすって。俺、あいつの手を何度も握ったけど、そんなの起きなかった」 胸を張って言うと、夏生がドン引きしたような顔をする。 「え…何度も手を握ったの…?ずいぶん、積極的…」 「違う!変な意味じゃなく!ってか、一度は向こうから腕を組んできたし!」 「ええっ!?もう、そんなところまで…?」 「だから、違うっての!」 確かに 俺はあいつに惚れてるかもしれない でもそれは変な意味じゃなく あの才能に惚れてるんだ 「俺は、九条と一緒に音楽やるの楽しいし、きっとこんな気持ちになるのは九条しかいないって思ってる。たぶん、それは九条も同じだと思う。俺と一緒にやってる時、ほんの少しだけど楽しそうな顔してたから…。だから、あいつにどんな事情があろうと、それが音楽以外のことだったら俺は気にしない」 「…本気、なの?」 「当たり前だろ。こんな気持ちになったの、初めてなんだ。もし、俺がαだから不安だっていうなら、これからはちゃんと抑制剤持ち歩くし、なんなら毎日飲むし。病院行って一番強い緊急抑制剤も処方してもらう。それでもヤバい時は、おまえと賢吾で半殺しにしてでも止めてくれればいい」 「いや、無理。俺たちが殺されちゃう」 「二人がかりなら、大丈夫だろ」 「どうかな…」 夏生は苦い顔で呟いて、しばらくの間考え込んでいたけど。 「…わかったよ。奏多がそこまで言うなら、俺も協力する」 溜め息混じりに、頷いてくれた。 「ホントか!?」 「うん。実は俺も、あの人とやってみたかったんだよね。この間の、スタジオで二人でやってたやつ、すごくカッコ良かったし」 「よっしゃ!」 俺よりも九条と繋がりのある夏生がその気になってくれたことで、なんか一気に全部が上手くいくような気がして。 「とりあえず土曜日のライブ、俺も誘ってみるよ」 「おう、頼む!…ところでさ」 テンション爆上った俺は、勢いに乗ってずっと気になってたことを訊ねた。 「なに?」 「なんでおまえ、九条さん、って呼ぶの?同級生なのに」 「ああ…だって、さすがに3コ上の人にタメ口は気が引けるじゃん?」 「…3コ…?なにが?」 「なにって、年齢?」 「ええええっっっ!?」 マジか!!! 「なんで…?浪人して入ったって感じじゃないよな?」 「さぁ?留学でもしてたんじゃない?あれだけ実力あるなら、おかしくないでしょ」 「…そうか…」 なんか… 知れば知るほど謎が深まっていく奴……

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