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序曲 15 side奏多

結局、その後ライブの日まで九条に会うことはなかった。 九条が、翌日からずっと学校を休んでしまったからだ。 「大丈夫なのか?風邪でも引いたかな?」 「別に病気じゃないみたいだったよ?なんか、実家の用事で忙しいとか」 「なら、いいけど…って!なんでおまえにはちゃんと連絡来るんだよ!」 「そりゃ、アドレス交換してるし」 「俺には絶対に教えてくれないのに!」 「警戒されてんじゃない?αだから」 「ひどい!差別だ!」 「さっきから二人で、なんの話?」 ライブ前に宛がわれた控え室で騒いでると、話に付いてこれない賢吾が不満そうに唇を尖らせて割り込んできた。 「ほら、この間奏多が連れてきた人いたでしょ?キーボードの」 「ああ!あの美人さん!」 「今、奏多と二人で口説き落とそうとしてんの」 「えっ!?あの人、うちに入ってくれんの!?」 「だから、そうなるように…」 「やったー!あんな美人さんが入ってくれたら、絶対人気出る!メジャーデビューも夢じゃない!」 「…話聞いてねぇな、こいつ…」 呆れて肩を落とす夏生を横目に見つつ。 もうすっかり九条が加入すると思い込んで舞い上がってる賢吾の肩を、掴む。 「…?なに?」 「あのさ…あいつ、Ωだけど」 つい、声が低くなってしまった。 賢吾がそういう奴じゃないってことは知ってる でも、万が一… 「そうだろうね。首輪着けてたし。でも、それがどうしたの?」 予想していた通りの反応を見せてくれた賢吾の様子に、思わず安堵の息が出る。 「いや、なんでもない」 「…あ!!もしかして、奏多が番にしようと狙ってる人ってこと!?」 「違う!」 「まぁ、それならそれでいいけどさぁ…バンド内でごちゃごちゃするのはちょっと…」 「おまえは人の話をちゃんと聞け!」 大きな声で怒鳴ると、きょとんとした顔で首を傾げた。 「あ、違うの?」 ようやく話を理解した賢吾に、今度は俺が肩を落とす番で。 「まぁ…それが賢吾だよね…」 夏生が、仕方なさそうに苦笑いする。 「とにかく!九条が聞きにくるかもしれないから、今日はいつも以上に気合い入れていくぞ。絶対、あいつに一緒にやりたいって言わせてやる!」 気合いを入れ直すため、拳を振り上げると。 「よっしゃ!美人さん、ゲットだぜ!」 賢吾が調子を合わせて、ベースを掻き鳴らした。 「え、古…」 「最近ハマってんだよねー、昔のアニメ。夏生も見る?」 「…遠慮しとく」 「なんの話?」 「そろそろ出番だぞー。準備はいいか?」 賢吾と夏生のよくわからない話に首を捻ってると、ドアが開いて今日の主催者である圭人さんが顔を出す。 「うっす」 「今日はめっちゃお客さん入ってるからな!ぶちかましてこい!」 圭人さんに喝入れてもらって。 「うっし!いくぞっ!」 「おっけー」 「よっしゃ!」 俺たちはステージへと向かった。

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