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序曲 16 side奏多
土曜日だからか、圭介さんの言った通り客席は満員だった。
でも、ひしめく人々の中でも、すぐにわかった。
真ん中の後方に立つ
周りの誰よりも目を引くその美貌
まるでそこだけスポットライトが当たってるみたいに
その姿は俺にははっきりと見えた
来てくれた…
喜びと安堵感に、思わず頬が緩む。
「どうも。BLUE MOONです。今日は来てくれてありがとう」
まっすぐに九条へ向けて言葉を放つと。
微かに頬が歪んだのがわかった。
でも、そんな顔もめちゃめちゃ美人だよな、おまえ
「一曲だけだけど、盛り上がっていこうぜ!」
さらに緩んでしまう頬をなんとか引き締めつつ、ドラムセットの真ん中にいる夏生を振り向いて。
夏生がスティックでカウントを取るのに合わせ、おもいっきり弦を弾いた。
瞬間、ドンッと会場を揺るがすような歓声が上がる。
会場中の人が、俺たちの音に合わせて思い思いに身体を揺らす中で、九条はぽつんと取り残されたように立ち尽くしている。
その姿から目を離さないまま、俺はマイクに向かって口を開いた。
俺の声が会場に響き渡った瞬間、ビクンと、微かに九条が震えたのが見えた。
ぎゅっと両手を握りしめ。
まっすぐに俺を見つめてくる。
まるで、なにかに耐えるような顔で。
ああ…
そうか…
それがあんたの本当の姿なんだな
こんなにも音に包まれているのに
その中でひとりぼっちで立ち尽くしている
まるであんたの周りだけ音が消えたみたいに
あのガラコンサートのピアノ
感情のない人形のような音は
あんたが迷子になってるからなんだ
あんなに音楽の神様に愛されているのに
あんたは自分の音楽を見失ってる
だったら
俺と
いや俺たちと
一緒に行こう
俺たちとだったら
きっと見つけられる
俺が見つけてみせる
あんたの
九条凪だけの音を………
たとえば今が
星も見えない暗闇でも
いつか必ず夜明けがくる
だから僕は歌おう
僕の歌声が
朝を告げるひばりのように
君に朝を届けるまで
僕は歌い続けよう
曲の最後、夏生のドラムの音が響くと。
一際大きな歓声が上がった。
「ありがとうございました!」
弾んだ息のまま、頭を下げると。
「かなたーっ!」
「最高ーっ!」
客席から次々に熱い声援が飛んでくる。
それに手を上げて答えながら、九条の方へと視線を向けると、なぜだか悔しそうに顔を歪めてるから。
俺は笑顔で、ガッツポーズを送ってやった。
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