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組曲(スウィート)1 side奏多

「えっ!?すごっ!もうそんなに弾けるようになったの?凪」 九条凪が俺のバンド、BLUEMOONに加入してから2ヶ月。 しぶしぶ条件を飲んでギターを教えてやると、まるでスポンジが水を吸収するかのごとく、すごいスピードで上達していった。 ホント 音楽の神様に愛されてるやつ… 俺がコツコツ積み上げて習得した技術を、いとも簡単に自分のものにしていく姿に、若干の嫉妬を覚えつつ。 それでも喜びの方が大きい自分の心を少し不思議に思いながら、凪を見つめる。 「でも、奏多みたいに弾けるようになるには、まだまだだな…」 「そりゃそうだよ。ギターに触ってきた年数が違うもん」 ぼやきながら、ギターを爪弾く凪を慰めるように、賢吾が優しくそう言って。 「でも、Ωなのにこんなに短期間でここまで出来るの、ホントにすごいから!」 微笑ましくそれを見ていたのに、次に発した余計な一言で全てを台無しにした。 こいつ、マジで…!!! 「…あ!ごめんっ!」 怒鳴りつけてやろうと息を吸うと、さすがに失言に気がついたのか、賢吾が一瞬早く頭を下げる。 「ホントごめん!俺、ホントにバカだから…」 「いいよ、大丈夫」 しおらしく反省の態度をすぐに示した賢吾を、凪は穏やかな声で遮った。 「別に、慣れてるし」 その表情からは、なんの感情も読み取れなくて。 「それに、賢吾は悪気ないのはわかってるから。わざと刃を向けてくるような奴らとは違うから、気にしてないよ」 でも、続いた言葉に。 大学の食堂で、凪の悪い噂を笑いながら話していた奴らの顔を思い出して、怒りがこみ上げる。 あんな風な心無い言葉を 今まで凪はどれほど投げつけられてきたんだろう Ωに生まれた たったそれだけのことで 身体から溢れだしそうになる怒りのやり場を求めて、俺は賢吾の頭をパーで殴った。 「痛っっ!」 「おまえはっ!いい加減に学習しろ!なんでもかんでも、バカだから、で済むと思うな!」 「はぁい…」 「奏多、なにも叩かなくても…」 「こいつは、ちゃんと自覚しないといけないんだよ。いくら悪気がないからって、言っていいことと悪いことがあるって。何気なく言った言葉で、誰かを深く傷付けることがあるんだから」 止めようと俺の腕を掴んだ凪に向かって、言うと。 凪はほんの少し、息を飲んで。 それから、眉をハの字に下げて、小さく頷く。 「そう…だね。俺は大丈夫だけど、それで傷付く人も、いるかもしれない」 「ああ」 「じゃあ…やっぱり、許さない」 「ええっ!ご、ごめんっ!ホントごめんっ!許してくださいっ!」 きゅっと表情を引き締めて、怒ったようにそう言うから。 賢吾は泣きそうな顔で、手を合わせて謝った。 「ふふっ…いいよ、今回は」 でも、すぐにふわりと薄く微笑んで。 「でも、俺以外の人には気を付けてね。ま、Ωなんて俺以外にはめったに出会わないと思うけど」 柔らかい声音でそう言ったけど。 俺以外 その言葉が、心に妙に引っ掛かって。 俺は怒りなんだか悲しみなんだかよくわからない感情を抱えたまま、凪の綺麗な横顔を見つめていた。

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