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組曲 2 side奏多
「…さっきは、ごめん。賢吾が無神経なこと言って」
スタジオを出て、帰りの電車の中。
無言で車窓を眺めている凪にそっと声をかけると、びっくりしたように目を真ん丸にして、俺を見た。
「なんで奏多が謝るの?」
「いや…俺、あいつの幼馴染みだしさ。あいつの無神経さを知ってたのに、今までちゃんと躾てこなかったこと、俺にも責任がある気がするから」
「躾って…賢吾は犬かよ…」
俺の言葉に、凪は肩を竦めて。
「別に、賢吾は奏多の家の犬じゃないんだから、責任感じることないよ。奏多って、ちょっと変…変わってるよね」
「…言い換えても同じだろ、それ」
「そう?じゃあ、奏多ってだいぶ変だよね」
「おい」
揶揄うような言葉を食い気味に遮ると、クスクスと声を上げて笑う。
そんなの、初めて見て。
楽しそうなその姿に、胸の奥が熱くなった。
なんだ…
ちゃんと笑えるんじゃん
「さっきも言ったけど、俺は本当に気にしてないよ。大学の奴らに比べたら、あんなの可愛いもんだし」
でも、凪が笑いながら言った言葉に、熱くなった心が一瞬で冷める。
知ってるのか…
自分がなんて噂されてるのか
全く関係なかった俺が知ってるくらいだから
嫌でも耳に入るのかもしれないけど…
「まぁ、しょうがないけどね。俺、Ωだってこと、隠してないし」
「しょうがなくねぇだろ」
諦めたような言葉を遮った声は、自分でも思ったより強いもので。
凪が、驚いたように口をつぐんだ。
「そんなもの、全然しょうがなくなんかない。Ωだからって理由で、理不尽を受け入れる必要なんてない。違うか?」
「…なに、怒ってんの」
「俺は、怒ってない。でも、おまえは怒るべきだろ。根も葉もない噂は、ちゃんと怒って否定するべきだ。じゃなきゃ、誰も本当の凪を解ろうとしないだろうが」
真っ直ぐに目を見つめると、その奥がゆらりと揺れる。
「そ、んなの…別に、いらない、し…」
そうして、いつもみたいにそっと目を逸らすから。
俺はその頬を両手で包み込んで、無理やり視線を合わせた。
「なに…」
「俺は、ちゃんと知ってる。凪は、あいつらが噂するような奴じゃないってこと。ピアノにしろ、ギターにしろ、凪はいつだって真摯に音楽に向き合ってる。そんなに長い付き合いじゃなくても、ちゃんと知ってる。だから、俺が嫌なんだよ。Ωだとしても、凪は凪だろ。九条凪っていう一人の人間を侮辱されることが、俺は嫌だ」
だから諦めてしまわないでくれ
Ωだから、なんて
一括りにしないでくれ
αだってΩだって
その存在は世界にたったひとつのものなんだから
「…奏多…」
凪の瞳は、まだゆらゆらと揺れていたけど。
それでもしっかりと俺の瞳を見返してくれる。
「奏多って…やっぱりだいぶ変だね」
言葉を紡ぐ唇は、小さく震えていて。
「でも…ありがと…」
なぜか今にも泣き出しそうな顔で、凪は小さく笑った。
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