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組曲 5 side奏多

2日後。 『悪いんだけど、3号館まで迎えに来て欲しい』 授業を終え、まだ学内にいるはずの凪を誘ってスタジオへ向かおうとスマホを開くと、その凪から連絡が来ていた。 「珍しいな…」 同じバンドで活動するようになって、ようやく連絡先を交換してくれたけど。 凪から連絡が来たのはそれが初めてで。 なんだか、嫌な感じがするな… 胸の奥の方がざわざわして。 急ぎ足で、3号館へと向かう。 いつもいるはずの練習室を片っ端から覗いてみたけど、どこにも姿はなくて。 電話をかけてみたけど、呼び出し音が鳴るだけで、出る気配はない。 「どこにいるんだよ…」 ざわざわは、どんどん大きくなっていって。 「ちょっと!」 俺は、ちょうど廊下を歩いてきたピアノ専攻の生徒らしき人を捕まえた。 「え…おまえ…」 そいつは俺の顔を見るなり、露骨に嫌悪感を顕にする。 「なに?」 「突然悪い。九条凪がどこにいるのか、知らないか?」 「…知らないけど」 そうして迷惑そうに顔をしかめ、俺の腕を振り払って。 急ぎ足でその場を離れていった。 ふと周りを見渡すと、廊下のあちらこちらから俺を遠巻きに見ている奴らがいて。 でも、俺が顔を向けると慌てて目を逸らし、そそくさとその場を離れていく。 「なんなんだよ…」 凪が見つからない苛立ちと。 ピアノ専攻の奴らの態度への苛立ちとで、怒りが込み上げてきた時。 「あれぇ?Ω様の忠犬じゃん」 ワンワン、と犬の鳴き声の物真似つきの揶揄う声が、背中にぶつかった。 振り向くと、いつかの食堂で見た男たちが立っていた。 凪の悪口を大声で撒き散らしてた奴らだ。 「…なんだと…?」 睨み付けると、一瞬怯んだ顔をしたけど。 真ん中に立ってた奴が、すぐに嘲笑うような嫌な笑みを貼り付けて、腕を組む。 「αって、哀れな生き物だよなー。俺たちβよりなんでも優れてるって言ったって、結局はΩ様のフェロモンに引き寄せられて、そのケツを追いかけ回すのが本能なんだもんなー」 明らかな、煽る言葉を投げつけられて。 一瞬カッと頭に血が上ったけど、なんとか理性で抑え込んだ。 こんなところで喧嘩して 凪に迷惑かけるわけにはいかない 「…勝手に言ってろよ。そのΩ様に実力じゃ勝てないクソザコβがよ」 それでも、なにも言い返さないのも腹の虫が収まらなくて。 つい、そんな言葉を投げ返してしまうと。 そいつは一瞬で耳まで真っ赤になって、ぶるぶると震えだす。 「てめぇっ…」 なにかを言い返そうとパクパクと口を動かすだけの、その情けない姿に、ほんの少し溜飲が下がって。 これ以上話を続けるのは無意味だと、背中を向けた。 「待てよっ!」 呼び止める声を無視して、その場を離れようとした。 けれど。 「おまえの大事な大事なΩ様は、他のαのところだぜ?さっさと取り戻しに行かないと、首、噛まれちゃうんじゃねえの?」 続けて聞こえてきた言葉に、思わず足が止まる。 「…なんだと?」 もう一度振り向くと、そいつはさっきまでの情けなさはきれいに消して、まるで勝ち誇ったような笑みを浮かべてた。 「ああでも、今頃はおまえのことなんて忘れて、お楽しみの最中かもなぁ。行ってみたら?江草教授の部屋。おまえの大好きなΩ様が、本当はどんな淫乱な生き物なのか、ちゃんとその目で見た方がいいんじゃねぇ?」 ドクッ、と。 心臓が嫌な音を立てて。 考える間もなく駆け出した俺の後ろで、俺を嘲笑う声が響いていた。

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