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組曲 7 side奏多

練習室から凪のカバンを持って戻ると、部屋の外にまでむせ返るほどの濃密なフェロモンの香りが充満してて。 数人の生徒たちが、困惑した顔で集まってた。 「なに?この匂い…」 「なんか、息苦しくないか…?」 「この部屋、なんかあるのかな?」 βはΩのフェロモンを感知しないはずなのに なんでこいつら集まってんだ…? 「ちょっと、退いてくれ」 その人混みを掻き分けて、凪のいる部屋へと急ぐ。 「え…この人、九条の…?」 「まさか、これって九条のフェロモンなのか…?」 大きくなったざわめきを無視して、ドアをノックした。 「凪、俺だ。奏多。開けてくれ」 何度かノックすると、カチャと鍵の開く音がして。 少しだけ開いたドアの向こうに、苦しそうな、でも蕩けたような潤んだ瞳の凪が顔を出す。 瞬間、またグラリと頭が揺れて。 慌てて、取ってきたカバンを中へと押し込んだ。 「早く飲め。落ち着くまで、俺は外にいるから」 それを受け取り、小さく頷いたのを確認して、ドアを締め。 周りで様子を伺っていた奴らを、見渡す。 「なにしてんだよ。見せ物じゃねぇんだけど?」 目に力を込めて睨み付けると、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ去っていった。 「ったく…」 ドアに背中を預け、息を大きく吐き出す。 フェロモンはまだ、強く辺りに漂っている。 あの様子だと… 教授に無理やり発情誘発剤を飲まされたってことか…? ってことは、やっぱり教授とはそんな関係じゃなかったってこと、だよな…? それにしても 学内で無理やりそんな薬飲ませるなんて なんなんだよ、あいつ… 沸々と沸き上がる怒りをなんとか抑えつつ、待ってると。 やがて、辺りに漂っていた凪のフェロモンの香りが薄くなってきて。 俺は、もう一度ドアをノックした。 「凪、入っても大丈夫か?」 「うん。どうぞ」 さっきまでとは違い、しっかりとした声色に少し安堵して、ドアを開く。 凪は、部屋の真ん中に横向きで寝転んでいて。 「大丈夫か?」 「うん」 声をかけると、気怠るそうに起き上がる。 その弾みで、羽織ってた俺のパーカーがずれて、白い肌が剥き出しになって。 「ちょおっ…」 慌てて、そのパーカーを掛け直しながら、目を背けると。 視線の先に凪のカバンと、いくつもの薬のシートの残骸が落ちているのが見えた。 「おい、おまえ、こんな量一度に飲んだらヤバくねぇか!?」 その数の多さに驚いてると、凪はパーカーの前を両手でしっかりと掴みながら、大きく息を吐く。 「ヤバいけど、仕方ないだろ。それくらい飲まないと、収まらなかったんだよ。こんなところでフェロモン振り撒き続けるわけにはいかないし」 そう言われて、俺に返す言葉はなく。 「…ホントに、大丈夫か?気持ち悪かったりしないか?」 ただ、体調を心配することしか言えない自分がもどかしかった。 「大丈夫。それより、ごめん。迷惑かけて」 「そんなこと、凪が謝ることじゃねぇよ。悪いのは…あの教授だろ」 「まぁ、そうなんだけど…俺のせいで、奏多もキツイ抑制剤打っちゃったでしょ?後で副作用とか出たら、申し訳ないから…」 「大丈夫だよ。医者から、1日に1回なら大丈夫だって言われてる薬だから。だから凪は、俺のことより自分の心配しろ」 本当に申し訳なさそうに眉を下げる凪の頬に、無意識にそっと右手を添えると。 「うん…ありがと」 凪は、俺の手に自分のそれを重ねて。 弱々しく、微笑んだ。

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