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組曲 10 side奏多

考える間もなく、家を飛び出した。 通話を繋げたまま電車に乗って、凪のマンションを目指す。 向こう側からは、凪の苦しそうな呼吸に混じって、時々俺の名前を呼ぶ涙混じりの小さな声が聞こえてきて。 その度に胸が押し潰されそうな痛みに襲われつつ、なんとか凪を励ましながら、マンションまで辿り着いた。 オートロックを開けてもらい、教えられた部屋の前に立つと。 昼間と同じように、いや、それ以上に辺り一面に凪の放つ濃いフェロモンが漂っていた。 なんで…!? ヒートは収まったんじゃなかったのか!? 思わず、足がすくんで。 抑制剤を取り出すために鞄を漁ろうとして、今日は既に緊急抑制剤を使ってしまったことを思い出す。 あの薬は副作用が強いから 医者には絶対に1日に一回を厳守しろって言わてる でも、抑制剤を打たないでこの部屋の中に入れるのか…? 入ってしまったら、俺は…… 無意識に、一歩後退りした時。 「…かなた…」 ドアの向こうから、凪の声が聞こえた。 瞬間 身体が雷に打たれたみたいに震えて 思考が全て吹き飛んだ 「凪っ!」 ドアを一気に開き、中へ飛び込むと。 息苦しいほど濃密なフェロモンが、俺を瞬時に取り囲んで。 ドンッと体当たりするように、熱い身体が胸に飛び込んでくる。 「…かなた…」 反射的に包み込んだ腕の中、凪は涙でぐちゃぐちゃの顔で、俺を見上げてきて。 目が合った瞬間、頭が真っ白になった。 ダメだ 抗えない 突き上げる衝動に、流されるように。 間近にある紅い唇に、自分のそれを押し付ける。 「んっ…」 初めて触れた唇は、柔らかくて、熱くて、そしてすごく甘くて。 本能の赴くまま、その甘い果実のような唇を貪った。 「んっ…は……か、なたっ……」 キスの合間に、吐息混じりの声が俺の名を呼ぶと、また身体が震える。 薄く開かれた唇の隙間へ舌を突っ込み、逃げるように奥へ引っ込んだ舌を掬いとって、絡めると。 凪の手が俺の背中にぎゅっとしがみついてきて。 初めての激しいキスに、脳みその血管が焼き切れてしまいそうだ。 「んっ…ん…ふ、っ…」 時折漏れる、鼻にかかった甘い声。 絡み合う、火傷しそうに熱い舌。 俺だけを求めるように、しっかりと俺に巻き付いた腕。 花のような、濃密なフェロモン。 凪の放つ全てが、俺を支配していく。 ヤバい 堕ちる 僅かに残った思考が、激しく警鐘を鳴らすけど。 「ん、んっ…」 凪が苦しげに身を捩ったはずみで、肩に引っかけてた布がパサリと床に落ちて。 反射的に目で追ったそれが、俺が貸したパーカーだと認識した瞬間。 もう 全部、吹っ飛んだ 「っ…かなたっ…」 俺は無理やり凪を抱き上げ。 部屋の奥へと向かった。

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