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組曲 15 side奏多
シャワーを浴び終わると、脱衣所には綺麗に畳まれたスウェットが置いてあった。
でも、凪の服なんて着られるのかなぁ、なんて考えながらそれを広げると、明らかに凪のものじゃない大きさで。
身に纏ってみると、俺にぴったりのサイズだったそれからは、ほんのりと匂いがする。
柔軟剤でも
ましてや凪のものでもない
知らないαの匂い
これってさ…
部屋着を置いておくぐらいの間柄のαがいるってこと
だよな…?
恋人…なのか…?
でもだったら
なんで俺を呼んだんだ…?
また沸き上がったモヤモヤを抱えつつ、仕方なくそれを身に付けたまま、部屋へ戻った。
「あ…やっぱ、サイズぴったりだったね。奏多が着れそうなの、それしかなかったからよかった。奏多の服、今洗濯してるから、乾くまでそれ着てて」
俺の姿を見ると、凪はちょっとほっとしたようにそう言って。
「…どうしたの?」
でも部屋の入り口に立ち尽くしたままの俺に、不思議そうに首をかしげる。
「あ、いや…この、スウェットってさ…」
聞いていいものか迷ったけど、やっぱり我慢できなくておずおずと訊ねると。
「…ああ。弟のだから、変な想像しなくていいよ」
さらりと、答えをくれた。
「へ?弟?」
「そう。ここに引っ越す時に、無理やり押し付けられたやつ。でも、結局一回も来たことないから、捨てようと思って忘れてたんだよね。役に立ってよかった」
「あ、そう…」
そういや前に会った真白さんって人
弟の婚約者だっていってたっけ
男なのに弟の婚約者って
その時は深く考えなかったけど
そっか
そうだよな
弟ってαなんだよな
「…おまえ、なんでも顔に出すぎ…」
ほっと胸を撫で下ろしてると、凪はなぜか困ったように眉を下げた。
「え、顔?」
「なんでもない」
なんのことかと訊ねると、ふいっと顔を背けて。
いつの間にかローテーブルの上に置かれてた四角い入れ物を、ごそごそと漁る。
「…あ、あった」
そこから取り出したものを見て、ぎょっとした。
「ちょおっ…まだ飲むのか!?」
昨日の
散乱してた薬のシートの残骸が頭んなかに浮かぶ
いくら俺が無知だからって
あんなに飲んで大丈夫とは思えないんだけど!?
シートから白い錠剤を取り出した指を慌てて掴むと、凪は迷惑そうに顔をしかめた。
「…違う。これ、アフターピル」
「へ…?」
はぁっと溜め息と共に吐き出されたワードが、即座にはビンとこなくて。
アフターピルって、なんだっけ…?
考えてたら、また大きな溜め息が落ちる。
「おまえ、おもいっきり中出ししただろ」
次に吐き出された直接的な言葉に、一気に羞恥が沸き上がってきた。
「な、な、な、中出しって…!」
「しただろ」
「う…ご、ごめん…」
「いいけど。っていうか、中に出してもらわないとこっちも収まんないから、別に謝ることないけど。うっかり子どもなんて出来たら、お互い困るだろ?それだけのことだよ」
なんでもないことのようにさらりと言われて。
胸の奥の方がずーんと重くなる。
わかってたことだけど
やっぱαとΩじゃ全然違うんだよな…
俺たちαは欲望のままにΩとセックスするけど
Ωは欲望だけじゃ生きていけない
ヒートを止めるために薬を飲んで
子どもが出来ないように薬を飲む
そんなの身体にいいわけないのに…
なんでΩばっかりそんなしんどい人生歩かなきゃいけないんだろ…
「…だから…全部顔に出過ぎなんだっての…」
無意識に肩を落としてたら、凪はまた溜め息を吐いて。
「そういうとこ、奏多って童貞だよね」
さらりと、爆弾発言を放った。
「んなっ!?」
なんでバレてるんだ!?
「あ、違った。もう童貞じゃないんだっけ?卒業おめでとう。αなのに、ずいぶん遅かったね」
「ありがとう。…じゃなくて!なんで、わかっ…」
「いや、わかるでしょ」
「…もしかして、下手だった…?」
「うーん…下手っていうか…」
「っていうか、なに!?」
言い淀んだ先を聞き出そうと、身を乗り出すと。
最悪のタイミングで、インターフォンが鳴る。
「あ、ピザきた。奏多、取ってきてくれない?」
「ええっ!?俺!?」
「そう。玄関前まで来られるの嫌だから、エントランスまでね」
「はぁ!?」
「俺、ヒート明けでまだふらふらするし。ほら、早く!」
強引に、背中を押されて。
「…わかったよ…」
俺はしぶしぶ、玄関へと向かった。
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