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組曲 17 side奏多
あれから一晩中、悶々と考えた。
あれって…
おもいっきり牽制されたんだよな、俺…
なんか
まだ恋に成る前に振られちゃった感じ…?
俺、ダサすぎじゃね…?
そんな駄々漏れだったかな…?
…いや、駄々漏れだったな、たぶん…
昔っから隠し事とか嘘とか、苦手だからなぁ…
でも……
『俺は、今でもあの人を愛してる』
そう言いきった時の、凪の顔
めちゃくちゃ哀しそうだった
正直、番って聞いて、相手のαにもやっとするところもある
でもそんなのよりなにより
あいつはもうこれ以上進みようがない恋を
一生抱え続けていくんだろうか
それってさ…
哀しすぎないかな…?
行き止まりの気持ちを抱え続けて
あいつ大丈夫なのかな………?
「はぁぁぁぁ………」
いやいや、そんなことより
これから俺、どうすんだ?
あんなにはっきりバッサリ振られてさ
明日からどうやって顔合わせりゃいいの!?
…やっぱ、バンド誘うべきじゃなかったかな…
賢吾が不安に思ってたのって
こういうことだろうし…
あいつ、案外鋭かったんだな
意外な発見だ
…そうじゃなくて
なにもなかったように振る舞うしかない
だってもう
凪なしのBLUE MOONなんて考えられない
だったら、今までみたいに
今まで…みたいに………?
「……そんなこと、出来んの?俺」
「奏多っ!!!」
大学の中庭にある、時々凪が一人で座っているベンチの上で、思わず自分への不信感が口から零れてしまった時。
どこからか、夏生の叫び声が聞こえた。
振り向くと、こっちへ向かって走ってくるのが見える。
「ちょっと!どういうことだよっ!?」
夏生は息を切らしながら、俺の側へやってきて。
ドカッと音を立てて、隣に座り込んだ。
「なに?」
「なに?じゃないよ!おまえ、凪になにした!?」
「えっ…」
怒りを浮かべた夏生の言葉に、ギクリとして。
「うちのとこ、大騒ぎなんだけど!一昨日、奏多のせいで、凪がヒート起こしたって!」
「はぁ!?違うしっ!」
「…違うの?」
でも、続いた言葉は全力で否定した。
なんでそんな話になってんだよ!?
そうして、一昨日大学であったことだけを包み隠さず話すと、みるみるうちに夏生の顔が青ざめていく。
「嘘でしょ…江草教授が…?」
「こんなこと、嘘吐くようなことかよ。信じらんないってんなら、教授の左頬見てみな。凪が抵抗した時に出来た、引っ掻き傷があるから」
あの瞬間の怒りが蘇ってきて、吐き捨てるようにそう言うと。
夏生はこくりと息を飲んで。
ガックリと項垂れた。
「…凪…大丈夫かな…」
「まぁ…たぶん、大丈夫だと思う…けど」
別れた時は
一応いつも通りっぽかったし…
チクチクとした胸の痛みと共に、昨日の凪の姿を思い出していた俺に。
「あの人、抑制剤があんま合わないらしくて…ヒートの日はいつも寝込んでるんだよね…なのに、無理やり発情誘発剤なんて飲まされて、大丈夫なのかな…?」
夏生のぽつりと落とした言葉が、突き刺さる。
「え…どういうこと?」
「どういうことって?」
「いつもは、適正量の抑制剤で抑えられるんじゃないの?」
「は?それ、誰情報?」
「誰っ、て…」
「初日だけだけど、必ず寝込んでるよ、あの人。なんか、自分はちょっと特殊なんだって言ってたけど…だから、普通の人より量を多めに飲むらしいんだけど、その分副作用が強いとか…」
夏生の声が、どんどん遠くなって。
自分の鼓動の音が、耳元で激しく鳴り響く。
頭のなかであの薬のシートが散乱した光景が、また蘇る。
苦しそうに俺に助けを求めてきた声が、また聞こえる。
もしも
俺に助けを求める前にも
また薬を飲んでたんだとしたら…
絶対、ヤバイだろっっ…!
なにかに追い立てられるように、立ち上がった。
「え?奏多?ちょっと!どこ行くんだよっ…!」
追いかけてきた夏生の声を振り切って、俺は大学を飛び出した。
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